a Day in Our Life


2002年06月18日(火) 木更津観光記念・半分事実なバンビアニ。


 「よう、バ〜ンビ!」

 上から振ってきた声に顔を上げると佐々木写真館の2階、開け放した窓からアニが顔を覗かせていた。
 「今。大学の帰り?」
 くわえタバコのまま軽く笑う。
 「うん」
 「ふーん大変だなー大学生は」
 「まあね」
 今日は授業が4限までびっしりで、5限がなかったのは幸いとはいえ、それでも遠く木更津まで帰って来たときには日も暮れ切ってしまっていた。その日の営業を終えた隣の洋品店は、すっかりシャッターを閉めてしまっている。その青いシャッターが、まだ少しの営業時間を残した佐々木写真館の店明かりに淡く照らし出されていた。完全に立ち止まった店の前、ふと正面を見ると店中にいるおばさんと目が合った。目だけで軽く会釈を交わす。
 「でもなんで、わざわざこっち通るって珍しくね?」
 ふと呟いたアニが、首を捻って通りを見やった。おまえんち、あっちからの方が近いじゃん。ぶっさんに用かなんか?
 「…本屋に用があったんだよ」
 思った以上に不機嫌な声になったかも知れなかった。まるで言い訳をする子供のように、ぼそぼそと早口で答えた俺には気付かったのか、気付かないふりをしたのか。アニは表情を変えないままふうん、と呟いた。
 「まあ、またマスターんとこにでも顔出せよ。ぶっさんもいるしさ、な?」
 「…うん。じゃな」
 「おう、またな」
 笑って手を振るアニに背を向けて歩き出す。足幅にして数歩分、ニ軒先に、続けてぶっさんの家が目に入った。ちらりと目をやると、店にはいないようだった。小さく息をつく。
 「ぶっさんぶっさんか…」
 知らず呟きが洩れた。
 アニは俺とぶっさんを仲直りさせたくてそんなことを言ったんだろう。もう3年も口を聞いていない。なんとなくタイミングを逃して、和解するきっかけを失くした。そりゃあ仲直りをしたくないわけじゃないけど、互いにおいそれとそんなことが出来るキャラじゃない。そんな状態で、俺がわざわざぶっさんに会うために遠回りまでしてこの道を通ると思ったらしい、アニは基本的に俺のことを分かっていないのだと思った。そう。アニは俺の思惑なんて気付きもしない。俺の本心なんて考えもしない。
 本屋なんか誤魔化しに過ぎなくて。本当は。
 大体こんな木更津の小さな本屋より、大学の近くで買う方が品揃えだっていいに決まってるんだ。それでも用もない近くの本屋に寄って、それを理由にこの道を通る。
 木更津駅からそごうを抜けて、西へ伸びる大通りを歩く。八幡神社を横目に、目の前が小さな商店街の西端、佐々木写真館だった。俺ら3人の本拠地であるみまち通り商店街―――別名たぬき横丁の、東側を経由した方が家には近いのに、わざわざ西側から迂回する。そうやって遠回りをして家に帰ろうとする理由なんて、たったひとつだけで。
 会えるかもって思うから。
 こんな風に、ひょっこり覗かせた笑い顔を見れるかもって思うから。
 ふと、足を止めて振り返る。通りの突き当たり、煙の先にアニの横顔が見えた。ぼんやりと空を見ていたその横顔が、視線に気がついてまた、手を振りかけてくる。ゆっくりと笑みを浮かべる。見たかった笑い顔。遠回りの理由。
 唐突に、心底自分がバカみたいだと思った。
 バカみたいだ。
 遠く東京の大学に2時間もかけて通学する自分。
 木更津を出ない理由。
 遠回りの歩数と時間、その間に考えること。
 当たり前のように見上げた2階から覗く、アニの笑い顔。
 …嬉しくて。
 なのにぶっさんの名前を出される。
 この、中途半端に渦巻いた気持ちはなんだろう。
 いろんなことに素直になれないでいる。
 いろんなことをハッキリ出来ないでいる。
 バカみたいだ。
 アニもバカだ。
 ぶっさんもバカだ。
 みんなバカだ。
 「…バカばっかりだ」
 吐き捨てるように呟いて、手も振らずに背を向けると一気に家まで走った。





■■■木更津へ行ってきました。

そしてモリモリとたぬき横丁を徘徊(笑)。バンビぶっさんアニんちを見て興奮に興奮を重ね、そしてアニぶっさんちの立地に萌えに萌えて、事実をベースに書いたバンビアニです。説明がいると思うのですが、木更津駅から大きく伸びる富士見通りのひと筋南、細道に逸れたところにみまち通り商店街はあるのです。で、中込呉服店は東西に伸びたみまち通りの南東あたり、そしてバーバー田渕と佐々木写真館は西側に位置しているのでした。西端どんつきにある佐々木写真館のすぐ近くには本屋があったので、本屋を理由に遠回りしてアニんちの前を通るバンビとかどうだろう、とか妄想した結果がこれなんですが、あとから1話でぶっさんアニに会ったバンビがまさにその状態だったと知って驚愕したのでした。ああ、またも妄想に事実が追いついてしまった…とほほとほほ。ちなみにお隣りさんかもと狙ってたバーバー田渕と佐々木写真館は、婦人洋品店を挟んで1軒先同士でした。壮絶に邪魔だと思ってしまった洋品店さん本当にごめんなさい(笑)。

微妙にアンニュイポエムになってしまった遠回りバンアニですが、実は薫さんとユズりんさんがそれぞれ続きポエムを書いて下さいました〜!それぞれアップ(完結)されるのを待ちましょう(笑)。どちらもかわいくて悶えますヨ!あ〜〜〜か〜わ〜い〜い〜〜〜〜〜(うねうね)。

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