a Day in Our Life


2002年06月12日(水) 夢。(沢黒)


 「やめてやるよ!こんな学校、こっちからやめてやる!」

 今でも夢に見る。
 あの時の黒崎の掠れた声と泣きそうに歪んだ目。震える拳。項垂れた黒崎の背中が小さく震えていて、俺はその肩を抱いてやりたいと思うのにそれが出来ない。なにか出来ることはないかと必死で考えるのになにも浮かばない。胸が苦しくて、息が出来ないと思う。呼吸を奪われる。苦しくて苦しくて苦しくて。真っ白になる。白濁した思考の中でゆっくりと、だけど確実に黒崎が先へ進んでいく。衝動的に追おうとする俺は、精一杯手を伸ばすけどその手は決して届かない。黒崎の背中がどんどん小さくなって、伸ばした手がちぎれそうだと俺は冷静に思う―――そこで目が覚める。目が覚めると真上に見慣れた天井があって、夢だったんだと思う。大きく息を吐く。ああ、俺は息をしている。
 夢が夢だったことに少しだけ安心して―――それは逃げでしかないのだけれど。
 久し振りにあの夢を見た。目が覚めると留置場の中だった。冷たい床の上で、ゆっくりと思考が戻ってくるのを感じる。そうだ、ここは警察で、俺は昨日、バーで喧嘩騒ぎを起こして捕まったのだ。学校の名誉と保身ばかりを考える教頭において、さすがに今回ばかりは退学を覚悟していた。いくらヤンクミでも、どうにもならないだろう、今回ばかりは。
 天井を見上げる。いつも目覚めたときに見る白い天井ではなく、コンクリの剥き出した、冷たい天井。
 ―――むしろ俺は、退学になりたかったのかも知れない、と思った。心のどこかでそれを望んでいたんだ。そうなることを。そうなるように。もちろんそれで、あいつが喜ぶなんて思っちゃいないけど。そんなことが気休めになるとも思っちゃいないけど。それでも俺はあいつに対して、なにかをしてやりたいんだと思う。ずっとずっと、なにかをしてやりたかったんだ。
 目を閉じると今でも、瞼のすぐ上にあいつの顔が浮かぶんだ。
 よく笑うやつだった。うっちーとバカばっかりやっていた。あいつらのバカに巻き込まれて、俺も一緒になってバカをやってた。それが楽しくて、それが全てだった。そんな毎日がずっと続くんだと思ってたのに。世の中は上手く行かない。
 あいつの笑い顔が薄れて、泣き顔に変わる。俺はそれを止められずに見ている。
 ああ、そういえば。
 留置場の薄汚れた床の上で見た夢の中でも、あいつを捕まえられなかったな、と思った。それぐらいじゃ許さない。黒崎が言ってる気がする。こっちに来いよって言ってる気がする。あいつはただ黙ってこちらを見ている。色の濃いサングラスに覆われて見ることは出来ないけれど、きっとその目は泣いているんだ。
 ギュ、と拳を握り締めた。
 本当はいつだって行きたかった。だけど俺の伸ばした手はあいつには届かなくて、だから。だからもし今度おまえに会えたら今度こそ逃がさない。今度こそきっとその手を掴んで、離さない。

 「…会いたいんだ」

 ぽつりと呟いて、目を閉じた。





 「…なあ、おまえあのときどんなこと考えてたの」

 口の中で呟くような声に、目線だけを上げて内山を見た。
 「あのときって?」
 「留置場で」
 他になんかあんのかよ、とでも言うような顔。短気で単細胞なこいつはたまにとても鋭くて、こんな風に人を見透かしたような目をする。別にそうと分かるようなそぶりを見せたつもりもなかったけど、それは内山も同じように、あいつのことを常に気に留めて生きているということなのだろう。
 「…別に」
 「んだよ、隠すのかよ」
 「隠してなんかねえよ」
 「隠してるよ」
 「わざわざ言うほどのことは考えてなかったってことだよ」
 「嘘だ」
 「…うっち」
 言葉を切って、内山を見据えた。
 「なにが言いたいんだ」
 逸らさずに目線を受け止めた内山と、睨み合うようにして一瞬時間が止まった。
 「……クロのこと考えたのかなと思ってさ」
 慎は優しいから。きっと重ねたんだろうなと思ったんだよ。
 絡んだ目線を外して、俯いた内山の横顔が少し翳った。本当に優しいのはきっとおまえの方だよ、と思う言葉は外には出さないで、内側に仕舞い込む。そうやって気を遣ってくれたのはいつでも内山だったんだと思う。いまも素直に心配してくれているのだろう。そういう気持ちはとても伝わってきたから。
 「黒崎の夢を見たよ」
 そういえば口に出して黒崎の名前を発音するのは久し振りだと思った。いつでも胸の内で呼び続けていたので、外から耳に届く黒崎の音感が居心地悪かった。
 「留置場で見る夢の中くらいあいつを捕まえられるかと思ったけど、そう上手く行かなかった。やっぱり逃げられたよ」
 出来るだけ明るく、なんでもないことのように言おうとしたのに余計に引き攣った感じになって、逆効果だったと思った。そうじゃなくても内山にはなにもかも知れているのに、今更。隠す事なんてなにもないのに。それでも言えないでいる。
 「…そっか、」
 アイツなにしてんのかな。内山の目が遠くを見ていた。
 「―――会いたいよな、久し振りに」
 「…ああ」
 いつだって思っているのに、口に出せないでいる。目を閉じると瞼の裏に、あいつはいるのに。いつだって、そこにいるのに。
 
 「会いたいよ」



 ただ俺はもう一度、おまえに会いたいだけなんだ。





■■■恋?

ついに解禁ごくせん9話!とゆうわけで期待を裏切らない内容に自主祭りの開催を予想したわけだったんですが、あっれー。なんでこんな暗くなってんの?つーか前半部分は今日の昼間に滑り込みで送信した沢黒こんなんどうかなポエムだったわけです。放映されたあとなのにこれが使えるあたりがスゴイよ…ブルブル…と思ったのでした。いや!夢見させて下さいよ!慎ちゃんは黒ちゃんが好きなんだと!そういうことにしておきましょうよここはひとつ!(ムリカラ) いやね、黒崎ウンヌンが出てきたとき、咄嗟に思ったのは7話の留置場の沢田だったわけです。状況的に、あのときの黒崎にちょっと似てるなと思って。だからそこできっと、黒崎のことを考えただろうと。これで退学になったら、少しは黒崎の気持ちが分かるかもしれないと思ったに違いないと。だからむしろ沢田は退学を恐れてはいなかったかも知れないと。ま、そういう夢です。(身も蓋もない)

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