a Day in Our Life


2002年06月01日(土) とりあえずナリツカから。みたいな。(ごくせんゲスト出演記念SS)


 9話の台本を貰って、中を見た瞬間なにかの冗談かと思った。そこには見慣れた名前が載っていたから。見慣れたと言ってもたった3ヶ月間。多くもなく少なくもない、中途半端な時間の中で、それでも深く馴染んだ名前だった。台本を手にして、俺と同じ驚きを体感した奴は少なくなかったはずだった。この現場に不思議と「彼」に関わりのあるやつは多い。濃くも薄くもなく彼をとりまいて小さな円を描いているような、不思議な感覚。その中心に位置する彼が9話にゲスト出演をするのだという。前クールのあのドラマが終ってからは、会う機会も会う理由もなくなってしまって、しばらく顔を見ていなかった。それはそれだけ俺と彼の関係の儚さを意味していて、その事実を改めて思い知るのだけれど、とにかく。久しぶりにあの明るい顔を見れるのだと思うと自然、顔がほころぶのが分かった。

 「おはようございまーす」

 よく知ったやや高めの声が聞こえて、俺は反射的に振り返った。その先には、さっそく小栗と軽口を交わす塚本の姿。なんとなく目が離せなくなって、見るともなしに見ていると、二言三言、言葉を交わしただけであっさりと別れた。またあとで、と心持ちまだ後ろを見やりながらゆっくりと目線を転じた塚本と、まともに目が合う。

 「あ、純」

 思いもかけず―――懐かしい名前で呼ばれた。久しぶりにその名前を聞いた。
 純。と明るく呼ばれる。それだけで時間と距離が急速に近づいた気がして、軽く眩暈がした。
 「久しぶり」
 そう言って笑いかけてくる塚本が、まるでしばらく家を空けていたアニがひょっこり帰って来たみたいで。まるでそこに帰る場所があるように。迎える場所があるように。過去と現在、虚構と現実が交差する。思わず、言った。 
 「お帰り、兄貴」
 俺の言葉に塚本は一瞬目を丸くして。それから。
 「ただいま」
 あっさりとそう言った。



 たったそれだけで、3ヶ月という時間が埋まる。それは長いのか短いのか、俺には判断出来ない。それから通りいっぺんの世間話をして(元気にしてた?あれから全然会う機会なかったけど)、小栗にしたように、じゃあまた、あとで、と手を振った。それから3−Dのクラスメイトの輪の中から、器用に松沢さんを見つけ出してまた、声を掛けた。彼が言葉を交わす、さまざまな彼の「知り合い」の間に曲線が伸びる。その線が俺からまっすぐ松沢さんに繋がるのを見た気がした。そうやって円が描かれるのをぼんやりと見ている。

 「純、だって」

 ぽん、と無造作に背中に投げられた声に振り返ると、潤くんが笑っていた。
 「一瞬俺のこと呼ばれたのかと思っちゃった」
 まぎらわしいね、言ってまた笑う。
 「別に、たまたま前の役を引きずっただけだよ」
 なんとなく返答に困って、誤魔化すみたいに出来るだけそっけなく言った。たまたまねえ、と潤くんが含んだ相槌を打つのを、まるでいたずらを見つかった子供のような気分で、目を逸らして流す。
 「俺はさあ、翔くんの味方だから」
 そんなのもまるでお見通しで、逃げるのを許さないように、潤くんは話を変えない。
 「だから妬くよ。だって兄貴、って呼べるのは純だけだもん」
 そうでしょ?笑い顔のまま、小首を傾げてみせた。
 でも純は”アニ”とは呼べないんだ。
 喉まで出かかった言葉を堪えて押し込んだ。そう言ってしまうのは、負けた気がして。勝ち負けの問題じゃないけど。そんなの子供じみてるけど。
 「味方もなにも、俺、張り合うつもりないもん」
 だから大丈夫だよ、とまるで言い聞かせるみたいに。誰に。自分に。
 アニと呼べない自分。兄貴と呼ぶ自分。それはそのまま俺の中途半端な状況に被って、焦れるような、むず痒い感覚を呼び起こす。そんな中でごくごく控えめに存在を主張する、小さな優越感と独占欲。

 張り合うつもりはない。そんなこと思いもしない。
 ただ俺にとってあのひとがいつまでも、兄貴であり肉親であるというだけなのだ。
 だから。
 ほんの少しの意地悪は許して貰えないだろうか。
 それは弟という甘やかされた存在の、子供じみた、小さな我がままなんだ。





■■■祝・ツカモトタカシくんごくせんゲスト出演。

祝いつうか、宴つうか。
突然飛び込んで来た朗報に喜び狂いまして、これは前祝いだ酒だ酒だと浮かれた頭にふと浮かんだのがこの、なんともパッとしないナリツカだったのでした…。なんで、なんでだ。なんでって私が心底サクツカだからみたいなのですね。サクツカを前提に持って来るとなりみやは片思いでしかありえないし、だったらそれでなくても恋愛やや敬遠しがちな彼はきっとそんなのを敏感に察知して、自分の心の動きに歯止めをかけそうかなあとか。報われない恋ってつらいじゃないですか。つらいと分かってるからさっぱりやめたいのに、でもそれがなかなか出来ない、そういう葛藤みたいなイメージが。勝手に。なんとなくナリツカは片思いででも決して不幸せではなく。いたって中途半端な関係が似合いそうかなと。不毛と言われればそれまでなんですが。だからいままで書かなかったんですが。結局書いちゃったよ。あーあ。書いたらやっぱりそんな感じになっちゃったよ。あーあ。

トークまでウザくかつ不毛ですみません。考え直せるものならば考え直したいと思います(笑)。
ていうか、前提としてツカモトがあるとゆーのがそもそも間違っているのですよね…。

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