a Day in Our Life


2002年05月15日(水) 天使と枕と目覚し時計。(ユズりんさんに頂きました赤亀SS)


「仁のバカ!!」

バタン、と勢い良くドアを閉めて・・というか叩きつけて亀が走って
出て行ってしまった。俺は部屋の中で、亀が破いた枕から舞い飛んで
いる羽根にまみれていた。今のドアの勢いで、更に羽根が飛んだみた
いだった。

今夜は、とうとう怒らしてしまった、本気で。いつものケンカの時の
亀とは、違う。いつものケンカは…そう、今回のに比べたら子供の
ケンカみたいなもの。自分の言いたい事を言って、叩いたり(叩くと
いってもお互いそんなに本気で叩いてはないし)、ムカツイタだの
お前なんかサイテーだの、罵声とばしあって、それでおしまい。
言いたい事を言ったらすっきりしてる。それがいつものケンカ。

でも… 今回は…。 

呆然としている俺。 あんな亀、初めて見たから。
原因は完全に俺だった。 まぁ・・悪いのは俺だ、よな。
昔付きあってた彼女がくれた目覚し時計。
未練とかそんなんじゃなく、俺はただのデザインが好きだから使って
いるだけなんだけど、亀はその時計を酷く嫌がってた。
亀のその反応はあたりまえだと思う。 
何度も、「捨てろ」って亀に言われた。俺んちに来る度にいわれた。
逆の立場でも同じ態度を取っていたと思う。 だけど、俺はなかなか
捨てないでいた。理由はない、ただ、なんとなく。

亀がキレるまでほっておいてしまった事を今更のように反省した。
今にも泣きそうな顔をしてた。 違う、今までもそんな顔してた。
でも、それを見てみない振りしてた。時計一つぐらいどうでもいいじゃ
ないかって、簡単に思ってたから。 …だめだな、結局いい訳じゃん。
あんな、顔、させるつもりじゃなかった。

部屋の中は、相変わらず枕の羽根がふわふわと浮いていた。
俺の、愛用の枕。真中からぱっくりと破れている。
もちろん、これは亀がやったんだけど(正直あの暴れっぷりには
ビックリした)、怒る、という気にはなれなかった。

それよりも。

亀はどこにいったのだろう?今まで軽いパニックに入っていた頭が
ようやく働き始めた。段々と、亀の様子を思い出してきた。

泣きそうな亀の顔。
舞い上がる枕の羽根が、髪にシャツに、いっぱいついていた。
(枕を持って振り回していたんだから、当たり前か)
そして…そして。

時計!
時計だ!!

俺は部屋を見渡した。 やっぱりだ時計がない。

俺は瞬間的に想像した。
飛び出した亀の手の中で、チクタクと時を刻む時計。
まるで、時限爆弾だ。 亀が、今まで俺に溜めてた気持ちの、爆弾。
そう思った瞬間、俺はもう部屋を飛び出していた。いてもたっても
いられなかった。今になってようやく、事の重大さに気がついた。
ごめん、亀。本当にごめん。

亀が行く場所はもう検討がついていた。良く語ったり、キャッチ
ボールしたりする空き地。 きっと、あそこだ。 今すぐ追いかけなきゃ。

その空き地への道。ただひたすらに走った。後悔の気持ちと、それと
謝りたいという気持ちで俺の頭はいっぱいだった。
道路には見覚えのある白い羽根が、行く方向に一杯落ちていた。
これは、きっと亀についていた、枕の羽根。
まるで、『こっちにきて』って言ってる見たいだった。
間違ってなかった、やっぱり、亀はあの空き地に向かってる!
走れ、俺! 亀に、会わなきゃ!!

亀と付き合って、一年以上になるから、忘れてた。
一緒にいられるだけで嬉しかった最初の気持ち。

最近じゃキスしたって、抱きしめたって、挨拶みたいに思って
しまっていた。

あの、ドキドキ、忘れてた。 ごめん、本当にごめん!!
心の中で謝ってばかりの俺。 今謝ったってどうしようもない、
ちゃんと亀に言わなきゃ、だろ。 どうして、こうなんだろう、俺。
いつも、後から気がつく。後から悔しがるとかいて「後悔」とは
昔の人は良く考えたもんだ。あぁ、全く、俺ってヤツは!
だからへタレって言われんだよ! そんな事はどうでもいい、
兎に角、走れ!

久々に全速力で走ったから、息が切れて苦しかった。
それでも、目的の空き地まで走りぬいた。今はそれしか出来なかったし。
そうして、…亀を見つけたんだ。
やっぱり、ここにきてたんだね。二人でよく来る、この空き地に。

亀は、やっぱりあの時計を持っていた。
そして、俺の方にゆっくりと視線を向け、ペコリと一つ御辞儀をした。
まるで他人にするみたいに。

「仁。」

急に名前を呼ばれて、息がまだ整っていない俺はちゃんとした返事が
出来なかった。代わりに、亀の目を見つめ返した。
「仁、愛を勘違い、しないでくださいっ」
そういって、亀は持っていた目覚まし時計を両手で力いっぱい空に
向かって投げた。時計が、空に吸い上げられていく。
その時計を、亀は何かを見送るような目で見送っていた。
俺は、そんな亀の顔に見惚れていた、あぁ、亀って綺麗だなって。
亀の髪やシャツに揺れる羽根が似合ってった。
似合っていると言ったらおかしいかもしれなけれども、儚くて、
すごく切なそうで…。
天使、見たいだった。


ガシャン。


空に吸い込まれていた目覚まし時計が、地球に戻ってきた音。
亀に見惚れていた瞬間に、もう時計は落下していた。
ただし、クッションも受け取る人もいない、地面に。
「うわ、マジかよ・・」
目覚まし時計はすでに時計の形をしていなかった。
思わずため息が出そうになるのを堪える。
全力疾走して、限界寸前の足を引きずりながら、俺は亀に近づいた。
亀は、落下してバラバラになった時計を見てとても小さな声で、
「ごめんね」と呟いていた。

チクリ、と胸が痛んだ。
バラバラに壊れた目覚ましよりも痛かったんだね、亀の心は。
「亀、ごめん」
もっと、他にもいう事はあるはずなのに。
それ以上言葉が口からでてこない。

「仁。」
「本当に、ごめん。ごめんなさい。」
「仁、もういいよ、俺もごめん。」
「亀は悪く無い」
「だって、俺、仁が大切にしてた時計も枕も破壊しちゃったんだし」
「そんなの、良いよ。又買えば。」
「でも、ごめん。仁、ごめん。」

本当に、俺ってヘタレだ。自分が情けなくて、亀の顔が見れなかった。
亀が謝る必要なんてないのに。俺が悪いんだから。

「俺のこと、嫌いなった?」
「なるわけないじゃん」

逆に、嫌われる程のことをしたのは俺だよ。

「亀は?俺のこと嫌いになった?」
「…そんなの…なるわけないじゃん」

その言葉に、思わず涙が出そうになった。嬉しくて、すごく、申し訳
なくて。そんな俺を、亀は優しく頭を撫でてくれた。いつもは逆の立場
なのに…。 でも、悪い気はしなかった。 すごく、心地よかった。

「俺が仁の事嫌いになるわけないじゃん。」

ほら、そういう事いったら、涙でそうになるじゃん。やめてよ。
俺も、亀のこときらいになるわけないじゃんと、泣きそうになるのを
こらえて返事をした。それでいっぱいいっぱいだった。
…これじゃ、小学生みたいだ。 
だけど、亀は…にっこり笑った。 いつものあの笑顔。
「ありがと」
そういって、キス、してくれた。 脈拍がガー――とあがった。 
やばい、マジで泣く。 
泣く顔なんて見られたくないから、背を向けた。
だって、堪える自信がもう、なかったし。 実際、泣いてたし。
ふいに、背中にぬくもりを感じた。
亀が、後ろからそっと抱きしめてくれていた。俺の、首元にこつんと
おでこをあてて、頭をまたよしよしってしてくれた。
もし、泣いてなかったらギューって抱きしめかえしてあげてたのに。
ありがとう、亀。やっぱり、俺、亀が大好きだよ。

「亀。帰ったら部屋の掃除、俺が全部やるから。」

俺の部屋。羽根が飛び散る、あの部屋に。

「一緒に帰ろう。」

今日、一番勇気を振り絞った言葉だった。まだ、亀の顔、見れなかっ
たし、俺は涙出てたし、見られたくなかったけど…。また、あの部屋
で亀と一緒の時間を過ごしたいと思ったんだ。そして、ちゃんと謝り
たいと思ったんだ。

亀からの返事は、すぐ返ってきた。
「俺も、掃除手伝うよ。それと、時計、今度一緒に買いに行こう。」
背中からトクトクトク、と亀の鼓動が伝わる。
嬉しかった。なんだか告白した時みたいにすごく、ドキドキした。
亀の鼓動と、俺のドキドキが重なって、お互いの体に響いているような
気がした。もう、涙は出てこなくなっていた。
涙の跡を、両手でごしごし拭いた。あぁ、もう・・・俺ってば。
「仁、もう泣かないで。」
首に、チュ、とキスをされてしまった。
…なんか今回に至っては、俺、すっごくオコサマじゃね?
亀がすごく大人に。 

「もう泣いてなんかねぇよ」
「ほんと、じゃ、こっち向いてよ」

「ほら。」
「ホントだ。じゃ、キスして」

「え」
「嫌?」

今日の亀は、かなり攻撃的だよ。ちょっと、オイオイ。
…悪く無いけど。亀の肩に両手をまわして、そっと頭を抱きしめて
亀の望むように、キスをした。 まだ、心臓はドキドキしてる。
一秒が、何十秒にも何百秒にも感じる、そんな瞬間だった。
このまま、時が止まれば、ってありきたりな言葉が頭をよぎった。
ずっと、亀とこうしていられたら・・・。 欲張りだな、俺。

キスをし終わって、俺は「好きだよ」と、ようやくいえた。
亀も、「俺も仁の事、すっげー好き」って言ってくれた。
すっげー、か。ちょっとした言葉を付け加えただけで、こんなにも
嬉しく思ってしまう自分。やっぱり、ガキだよなぁ。
でも、やっぱり嬉しいものは嬉しいんだよ、亀。
今度は俺がギュッと亀を抱きしめた。

俺って、もしかしてチョー幸せモノ?
もう、ずっと前から。
気がつくの、遅いよなぁ、俺。
何度も言うけど本当に、ごめんね、亀。
俺って、独占欲は強いくせにどっか、鈍感みたい。

俺がそう言うと、亀は「今ごろ気がついたの?」とさらりと言った。
そして、にっこり笑って「もう少し、敏感になってよね〜」なんて
言われてしまった。参ったね、どうやら亀には敵わないらしい。
このまま、ずっと敵わない人でいて欲しい。

ずっと、俺の側で、笑っていてね。
天使みたいに。





■■■君はきっとどうしようもない僕に降りてきた天使。

とゆーわけで元歌にピンときた方も多かったかと思われます、マキハラな赤亀を頂きましたー***
ちょっと意外だったんですけど、ナカナカしっくり来るのですね…カメが天使というよりはどうしようもないアカニシさんがあたし的にはまり役だったりして(笑)。どうなんですかね、赤亀は、出来ればベクトルは同じ方向同じ力加減だったらいいなと思うんですけど、果たしていかがなものか。カメには敵わないと思ってるアカニシさんってのが思いのほかツボでした。敵わなければいいのにと思う。それほどにカメがアカニシさんを好きなんだと思うので。お互い様ではあるんですけど(笑)。

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