a Day in Our Life


2002年05月06日(月) ユズりんさんに頂きました超大作・山斗。


 仕事が終わって家に帰ってする事。メールチェック。

 毎日きまって、ヤツからのメールがきて、それに返信するのが毎日の事で。最初はめんどくさいと思う事もあったけれども、今ではそれが当たり前の、習慣の一つとなっている。内容は、その日の仕事の事とか誰と何をしたとか、仁がムカついたとか(笑)…そんな他愛のない事ばかりだ。でも毎日読むのが楽しかった。そんな事を逐一報告してくるようなタイプのヤツじゃないし、ついさっきまで会ってただろ?って時だって変わらずメールは送ってくるわで、俺にとっては当たり前の、結構大切な習慣の一つになっていた。どうせ、メールで何度か返信しあうなら携帯にかければいいのに、と何度か思ったけれども、その度に山下が自分から携帯かけてくるって事はあんましないなぁ、と思い直してまた、携帯の小さなボタンを連打しながら文章をつくる。そんな事の繰り返しが続いていた。
 今日もいつものように携帯をポケットから取り出してメールをチェックをする。…。珍しい。今日はメールが届いてない。いつもは俺が家に帰ったのを見計らったようにメールが届いてくるというのに。
 ソファーに寝そべってしばらく、携帯とにらめっこをする。携帯を顔の近づけて、しばらくそのまま石のように固まってそのまま5分10分、待ち続けていた。でも、携帯は無音・無反応・全くなんにも無し。
 「…なんだよ、今日はナシかよ」
 自分の口から出た言葉が、思った以上に寂しさが混じってて焦った。
 そんな日もあるさ〜と、鼻歌まじりに笑い飛ばそうとしたけど、実際寂しがってソファーでクッションにうずもれる俺がいるわけで。カッコワリィな、俺。未練たらしくまだ携帯をイジる。ピコピコとボタン操作の音が部屋に響く。
 バイブ設定にしたり、サイレントにしたり解除したり、画面変えたり、着メロ変えたり。あーだこうだとしてるうちに一時間経ってしまってた。…なにやってるんだろ、俺。はぁ、と自分が溜め息をついているのに気がついて苦笑いが出る。
 マズい、へこんでる?
 それにしたって、山下ってば何してんのさ。メール、来ないぞ。なにかあった?送れない状況にでもいるのかな?…それとも、なにかしたか、俺。今日一日を振り返ってみたけど、何もなかったハズ…だよな。少しだけど仕事の合間に山下と合って話をしたぐらい、だよな。何を話したっけ?あ、オフにドライブ連れていってもらった事か(笑)。山下に話したのはそれくらいだよな…お互い別の仕事が入ってたから、少ししか会えなかったし。あ、もしかして仕事が忙しくて疲れて眠っちゃってるとか。だとしたらメールがこなくったって仕方ないよな。
 頭のなかでグルグル一人事を呟く。相変わらず携帯は片手に持ったままで。
 こんなにもどかしいままでいるくらいなら自分から連絡をとれば早いのに、と頭の中では分かっていても、いつもは山下から送られてくるという意識があって、なんか送れない。変に意地になってる感じ。
 「あーもー…めんどー…」
 仰向けになって抱いていたクッションを投げる。俺ってたまに頑固になるんだよな、ほんと(苦笑)。気を紛らわすためにリモコンを手にとり、テレビをつける。この時間の番組ってろくなのないんだよな、とかぼやきつつ特に見たいわけでもないチャンネルをぐるぐるまわしていた。
 ふと、それとなく目に止まったニュース。車と人との接触事故。アナウンサーは事務的に事故内容を話ている。淡々と、他人事のように。ふいに、脈拍が上がったような気がした。気がしたというより、上がっている。
 まさか…まさか、山下、考えたくはないんだけど…事故、なんて事…
 自分の血が頭からサーっと引いていくのが分かった。携帯をもつ手が、微かに震えているのに気がつく。そんな事、あるかよ。あるわけないじゃん。そう思いながらも、指は携帯の、押し慣れた山下の番号をコールしていた。
 コール音が聞こえた。心臓が大きな音で、体中を支配している。気持ち悪い、頭が真っ白になる。早く、山下出て!
 『プッ』
 携帯が通じた!

 「山下!」

 向こうからは返事が来ない。ただ、少し困惑してるというか、戸惑っている感じが伝わってくる。俺はというと一人まくし立てて大騒ぎしていた。
 「なんだよ!無事なんじゃないかよ!なんでなんも連絡くれないんだよ。いっつもおまえから連絡をしてくるくせになんも、今日に限ってなんにも連絡ないから、なんかあったんじゃないかと思ったじゃないかよ!」
 「なんだよ、これじゃ俺が一人ばかみたいにしゃべってるだけじゃん」
 実際、そうなんだけど。
 「なんか言えよ、山下…俺、一人空回りしてるみたいじゃん」
 実際、空回りしてたけど(笑)
 「ごめん」
 ようやく山下の反応がかえってきた。なんだか、すごく久々に山下の声をきいたようなきがする。心がほっとする。
 「ごめん。」ともう一度山下が小さな声で言った。
 急に、俺の心に罪悪感が芽生えた。いや、こっちも急にまくしたててごめん、と俺も謝り返したけど、どちらかっていうとほとんど俺の早とちりの暴走状態だったし。頭が冷静になってくるにつれて、さっきまでの自分の言動が恥ずかしくなって、たまらなかった。
 改めて、もう一度山下にごめん、と謝った。
 「なんか、変な電話だよな。急に斗真が怒って、俺が怒られて、俺が謝って斗真が謝って。わけわかんねー」
 「確かに。」
 思わず吹き出してしまう。電話の向こうで山下も笑ってる。それだけで、さっきの怒りだとかむかつきだとかチャラなしてもいいっていうくらい暖かい気持ちになれる。

 いや、まて。

 そういえば、何について怒っててむかついてたんだ?
 あ、思い出した。
 「山下さ。」
 「ん、何?」
 「今日はなんでメールくれなかったの?仕事忙しかったの?」
 「そうでもない」
 また、黙り込む。おいおい、また一からやり直しかい?(笑)
 「じゃ、メールするのネタがなかったとか?」
 「ううん」
 さらに加速する山下の沈黙加減。こいつってば、他のジュニアの攻撃(笑)にはガンガン反撃してやりかえすのに、俺には最近そういうのがないんだよな。なんかちょっと寂しい。
 「じゃぁ、俺がなんか気にさわる事した…?」
 俺には全く記憶にはないんだけど。もしかしたら山下になにか不快な思いをさせてたのかもしれない。
 「…そんなんじゃねぇよ」
 ようやく、反応らしい反応が返ってきた。ちょっと、拗ねたかんじではあったけれど。
 「そんなんじゃないってどういう事?」
 一瞬、間があった。それから、少し溜め息みたいなものが携帯から伝わってきた。なんだよ、言えってんだよ言いたい事があるなら。
 「何?俺に直してほしいところがあるんだったら言ってよ。山下らしくないじゃん、そういうの。」
 「違う。違うんだって。」
 投げやりに否定する。小さく、また溜め息が聞こえてかすかーに、鈍すぎ…という声が聞こえた。なんだと、このやろう。(笑)
 反論をしようて思ったその時。
 「俺が免許とったら、二人でどっかにいこうな」
 あまりに話が見えない。山下の発言に思わず首をかしげる俺。つまりそれはどういう話の流れさ?考え込んで無反応な俺に気がついてか、山下がまた鈍い、と呟いた。今回のは聞こえるように言っただろう、お前は〜!
 「っていうか、俺のが先に免許とったりして。」
 とりあえず反撃。自分で言っておきながら意味のない反撃だった…。
 「それでもいいから、俺がドライブ連れてってやるって。いい加減気がつけよ。」
 ドライブ…もしかして昼間に話したオフの話をしているんだろうか。あの日は翼くんとドライブに行って楽しかったんだよなぁ。…しかし、山下はなんでそれについて噛み付いてくるのやら。
 …もしかして。…もしかして、もしかしてなのか?俺と、二人で?さっきの発言をよくよく思い出して考えてみると、つまり、そういう事になる、よな。え、マジで?
 そりゃ、俺、鈍すぎだ。鈍感王だ。う うわぁ(汗)
 今までのこいつの態度とか、今までの発言とか…そういえば思い当たる節がいくつか…。それに気がついてしまった。それっていうのは山下の気持ちで、今まで俺はすげー仲のイイダチだと思っていて。どうしよう、そんな事急にいわれてもわかんない。わかんないけど、嫌じゃない。
 耳が熱くなっていくのがわかる。耳どころか、顔までも。
 「俺、まだ車もってないから斗真をドライブに誘えないけど、免許とったら、まず最初に隣乗させるから」
 乗させるって、あなた(笑)
 「斗真がドライブ好きなのは知ってるんだけど、翼くんには悪いんだけど、斗真が他のヤツと楽しそうにしてるの想像したら…もうむかついて。」
 「うわ、ヒド!だからメールくれなかってわけ?」
 「だからごめんって。…それに、あんなに楽しそうに話してる斗真の話の中に、俺がいなかったのが嫌だったんだよ」
 うわ…なんて自己中な(笑)そんな理由で俺は右往左往空回りをしてたわけか。…まぁ、別にいやじゃないんだけど…て思う自分がいるのにちょっと驚いた。俺ももしかして、もしかしてたのかな?
 「ほんと、ごめん。そんなに心配してくれるとは思ってなかった」
 気分むかついてたんだけど、そんなのどうでもよくなったし、と山下は嬉しそうにいう。ごめんなさいと言う割りに反省の色がみえないんですけど。確信犯か、もしかして。
 「と、いうわけで免許取ったらドライブいこうな」
 …いつもの山下テンションに戻ってる。全く、こいつは…(笑)さっきまでの元気のなさはどこへいったんだよ。
 「でもまぁ、ドライブできるまでまだ相当時間かかりそうだけどね〜」
 「んだよ、待ってろって(笑)」
 「翼くんにまた誘って貰おうかな〜」
 このぐらいイジメてもいいよな。(笑)
 「いやだ、ダメ、いくな」
 即答かよ。しかもマジ返しだし。でも、嬉しい。
 「なにガキみたくムキになってんだよ。じゃ山下も今度一緒にいこうよ。楽しいぞー」
 「それより、どっか二人でいかね?今度のオフが合った時に」
 話変えられたし。そんなにダメですか、ドライブ…。…っていうか、…今のて…
 「今のって何?デートのお誘い?」
 半分笑って半分伺うように尋ねる。
 「…その、つもりだけど。悪い?」
 悪いって、山下さん(笑)悪くわないです。そしてそのつもり、なんですか山下さん!
 「悪くないよ、俺も別に」
 そのつもりでかまいません、と小声でつけたした。あぁ、頭がくらくらする真っ白になる心臓がドキドキしすぎて痛い。っていうか気がついたら俺、床で正座してるし!(笑)
 携帯からは「ヤッタ!」といううれしげーな山下さんの声。むかつくなぁ、その幸せそうな声が。
 「じゃ、次回デートはディズニーランドって事で決定」
 おいおい、話し勝手にすすめんなよ!しかもディズニーって…
 「まじで?マジでその話を進めてる?」
 「大マジ。だって斗真、恋人できたらディズニーランド行きたいって言ってたじゃん」
 「い、言ってたけど、そりゃ」
 恋人って言葉を出されると…マジ照れる。照れないのか山下!
 「いいよな、決定。」
 しかも決定かよ!ほっんと自分に素直なヤツだよな。俺も心が広くなるってもんだよ…
 「仕方無いなぁ、一緒にいてやるよ」
 携帯からは嬉しそうに任しておけと言う、やけにヤル気の山下の声が聞こえる。こいつのこういうところ、憎めなくて好きだなぁ。

 「斗真、今日は色々とごめん」
 「いや、それは俺もだし」
 「なんか…言うこと全部言ったらすっきりした」
 そりゃそうだろうよ…俺もまさかこんな展開になるなんて思ってなかったし。(笑)
 「でも、嬉しかった方が大きいかな。斗真の気持ち、分かったし…」
 「う、うん」
 恥ずかしいからその話題はやめてくれ…あー。
 「じゃ、今日はこれで。明日も仕事頑張ろうな。」
 プツ。
 げ。切りやがった…自分の言いたい事を全部言って切りやがった…。まぁ…山下らしいといえば山下らしい、というか。

 しばらく、俺は携帯と見つめ合ったままにやけていた。嬉しくてドキドキで、幸せな感じ。ニヘラ、と笑う俺。今は、ただ山下とのオフが重なる日が早くくるように祈るのみ。
 神様、どうかその日が訪れますように。
 また明日、山下に会ったら初めになんて声をかけようかな(笑)でもきっといつも通りの二人だろうな。ただ、俺らの中で変わっただけだから。

 しあわせの、形がね(笑)

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