a Day in Our Life


2002年05月01日(水) 休日の過ごし方。(山斗)


 …ナニ。コレ。

 3ヶ月ほぼかかりっきりだったドラマが終了して、やっとオフらしいオフを貰った。特に予定も入れずにゆっくりしようと思った、そんな休日。目覚ましをかけないで好きな時間に起きた。目を覚ました昼すぎ、なんとなく点けたTV画面にいきなり飛び込んできた、よく知った顔。

 TVの中で、斗真が笑ってた。

 日曜のお昼に一体誰が見るんだろう、なんて失礼なことを思ったバラエティ番組。そうか、俺みたいなやつが俺みたいな気軽さで見るのかな、なんて余計なことを考えようとしながらも、目だけは画面を捉えて離さない。

 斗真はまだ笑ってる。

 そりゃあね、TVだし、斗真だって笑うだろう。俺だって笑うもん。だけど、問題はそこじゃなくて。そこにいる斗真が。笑ってる斗真が。知らない人みたいに見えたんだ。四角いTVの画面の中で。俺の手の届かない場所で。知らない顔で、笑ってたんだ。
 「…なに、どうゆうこと」
 自然、呟きが洩れた。ここは俺の部屋だし、俺以外いないし。呟きは誰にも聞かれることなく空気に溶ける。
 「斗真って、こんな顔で笑ったっけ…」
 ロケ続きでしばらく会わない日が続いたからって、斗真の顔なんか忘れない。いつだって引き出しを開けて、取り出して見せられるくらいには、俺の中でそれは大きな位置を占めていて。
 そう、ロケが煮詰まったり疲れが溜まったり、弱い自分が顔を覗かすとき、決まって思い浮かべるのは斗真の顔で。頭に浮かぶその姿だけで、少しでも癒されるような気になる、大好きな人。笑った顔が好きで、怒った声が好きで、喧嘩もするけど俺から言わせれば、それは好きの裏返しみたいなもので。だって好きじゃないやつなんか、構いもしない。興味もない。
 好きだって、言ったのは俺が先だった。
 いま思うに少し焦ってたのかも知れない。斗真は人気者で、みんなから好かれてて。そんな斗真が俺に優しいのを優越感みたいに感じながら、誰にも渡したくないって思ってた。だから宣言するみたいに斗真が好きだって言った。斗真は一瞬目を丸くして、それからうん、俺も、と笑った。それを見て俺は肩からすっかり力を抜いて、大きな、大きな息をついたのだった。嫌われてるとは思ってなかったけど、振られるとは思いもしてなかったけど、それでも心のどこかに不安があったんだ。体から力が抜けて、代わりに染み込むように広がる安堵と幸せ。幸せが形を持ってたら、きっととても柔らかな、淡い色をしているんだろうと思った。
 俺は、自分で言うのもなんだけどわりとジコチュウで、仲のいいやつにほど素直になれない。仁となんかしょっちゅう喧嘩するし、口を開けば憎まれ口ばかり。それでも俺は仁が好きだし、いいやつだと思ってる、本人には絶対言わないけど。斗真と罵りあったりはしないけど、それでも好きだとかそうゆうことは、あれっきり言ってない気がする。
 好きだなんていつも思ってるし、いつだって口に出したいんだけど、なんとなく言うのが憚られて。言えない自分がいる。その代わりに手を繋いで、斗真の近くに行こうとする。斗真はなにも言わないで、手を繋いでくれる。斗真は大人で、俺は子供だなって思う。それが悔しいときがある。俺はどこまで行っても斗真よりひとつ年下だし、その年の差は、俺がいくら埋めたいって思っても一生埋まらない。
 気がつくと、TV画面はもう斗真から離れて、缶ビールのコマーシャルを映し出していた。チャンネルを変えようと持ち替えたリモコンを、そのまま机に置いた。
 小さく息を吐く。
 なにもない休日。考えるのはあなたのことばかり。
 斗真のことを考える休日。それも悪くないな、と思った。
 
 もう一度、さっきの斗真の笑い顔を思い浮かべた。

 知らない顔で笑う斗真は、見ていて居心地が悪かった。おかしな顔なんじゃなくて、むしろ逆で、そう、なんというか。きれいだったんだ。
 俺の知らない顔で、俺の知らない間に笑う斗真は、なにを考えて、誰に笑っているんだろう。なんとなく思った。

 無性に斗真に会いたくなった。

 ベッドサイドに放りっぱなしの鞄を引き寄せて、携帯を取り出す。きちんと畳まれたそれをぱかんと開いて、ボタンひとつで出て来る斗真の名前。今日はなんか仕事入ってたかな。こんなにも天気のいい日曜日、もしかしたら誰かと遊んでるかも知れない。思いとは裏腹に手が勝手に動いて、通話ボタンを押した。電子的なコールが数回聞こえて、ふと空白が訪れる。一瞬の間を置いて、斗真の声が聞こえた。
 『もしもし?』
 少し低めの、大好きな声。
 「斗真?」
 『なに、どうしたの山下?』
 今日は休みなの?と声が語りかけてくる。周りは静かで、少なくとも仕事中ではなさそうだった。
 「うん、久々に休み貰った。さっきTVで斗真を見て、声が聞きたくなったの」
 『アハハ。それ、俺も見てるよ、いま』
 それで耳を澄ますと、遠くにTVの音。耳から聞こえるTV音と、携帯を通したTV音がシンクロする。なに、斗真も休みなの?聞くとうんそう、と返ってくる。いま、家?うん、そう。山下も?うん。お互いなに、休みなのに家に篭ってるの。本当だね。それでふたりして笑った。ここ少しは忙しくて、電話も出来なかったから、久し振りに声を聞いた。電波を通して笑う斗真は、俺の知ってる斗真で。
 『…山下?』
 どうかした、と優しい声がした。斗真は声のトーンがよく変わる。怒ってるとき、嬉しいとき、凹んでるとき、声を聞くだけですぐ分かる。それは俺が斗真を好きだからかも知れないけど。いまは…穏やかなトーンだった。満ち足りた声。
 「あのね、斗真」
 だからかな、つられて俺も、なんだかとても素直な気持ちになった。
 『うん』
 「さっきTVでさ、斗真笑ってたじゃん」
 『そりゃあ笑うよ』
 「うん(笑)。なんかさそれが、知らない人みたいだったんだよね」
 『知らない人?』
 「俺の知らない顔で笑ってた」
 『そうなの…?』
 「うん、そう。なんていうか…」
 『いうか?』
 「きれいだった、かな」
 『・・・』
 斗真が息を飲む、気配。どうしたの山下、いきなり?そんな答えを予想してたのに、返って来たのは
 『それは、山下のことでも考えてたからじゃない?』
 なんて。冗談交じりに言われて、今度は俺が息を飲んだ。
 「そうなんだ」
 『うん、そう』
 それで一旦会話が途切れて。ただ静かに繋がる、俺と斗真の見えない空間。日曜の午後のゆったりとした空気の中で、ぼんやりと思った。斗真が好きだって。
 それはやっぱり声に乗らなくて、内側に消えてしまう。染み入るように俺の中に広がって、斗真までは届かない。
 言えばいいのに、って思う。好きなら好きって言わないと。何度でも言わないと。仁にいつも言われる。そんなの、言ってあげないとかわいそうだよ。そうかも知れないって思う。あんなに前に一度言ったっきりの言葉を、斗真はまだ覚えてるんだろうか。もう忘れちゃってるのかな。忘れないように、本当は。言い含めるみたいに言うべきなのかも知れない。
 斗真がなにも言わないから。甘えてしまうんだ。たったひとつしか違わない年の差を誰よりも気にしてるのは俺なのに、気がつくとそれを免罪符にして甘えてる。斗真の優しさに甘えてる。
 ひとつ深呼吸をした。大きく空気を吸って、ゆっくりと吐き出す。それから。
 「好きだよ」
 斗真のこと。こうゆうの、倒置法っていうんだっけ?誤魔化すみたいに順番を入れ替えて。斗真の気配を探る。電波の向こう側で、斗真が息を吐いたのが分かった。
 『大丈夫、』
 分かってるから。と、柔らかい声。
 大丈夫だよ。言えない山下の性格も、山下の気持ちも、分かってる。

 やっぱり甘やかされてる、と思った。そんな斗真がやっぱり好きで、誰よりも好きで。





 好きな人をもっと好きになる、穏やかな休日。





■■■やまとま。

・・・・・・・・・・・誰だろう、これは・・・。(自問自答)
思っていたのとは全く違う話になってしまったヨー!もっとこう、ヤキモチ妬きで唯我独尊な山ピの話になる予定だったのに!むしろこれ、斗山みたいな…(アワワ)。どうも私の中の山ピーは、こんなイメージなようです。見当違いかも知れませんが、山斗は結構穏やかな組み合わせじゃないかと思うのですよ。斗真はとても包容力がありそうだと思います。そして山ピーは斗真が大好き(笑)。赦すと赦されるがバランスよく交差してる、そんな感じだったらいいのにと夢見てます。

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