a Day in Our Life


2002年02月20日(水) ミッドナイト貸切営業。(マスターアニ)


 「マスター、ビール〜〜〜」

 店のドアを乱暴に開けてズカスカと入って来たアニが、開口一番・言った。ああ、これはまたかな。アニがこんな風に荒れて来るときの原因は大体、決まっていた。
 「なんだよー、まーた振られたの?」
 「そこーうるさいよ!」
 言いながら大ジョッキに満杯注いだビールを出してやる。カウンターに座り込んだアニが、ジョッキを持ち上げて一気に煽った。あーあ、荒れてんなー。酔ってんなー。
 「なんかさあもう、毎回同じこと言われるわけ!アニは女ゴコロが分かってない。アニはあたしのこと全然分かってない。その前にお前が俺をアニって呼ぶ時点でお前こそ俺の気持ちを全然分かってねんだっつーの!」
 まくしたてるように、最後は叫び声に近かった。よしよし、と軽く頭を撫でて、あっさり空になったジョッキにまた、ビールを注いだ。
 「なあマスター…俺ってそんなにナンセンスな男なの?」
 「さあ、どうだかなあ?」
 で、どうしたの。聞くとなにが?と返される。いや、別れてって言われてさ。お前はどうした訳。
 「とりあえず最後に一回やらせてって言ってヤってきた」
 うん、とりあえずそれがさ、デリカシーがないって言われる最大の理由じゃないかな(笑)。
 「いんだよぉ、どーせ振られた女だもん、これ以上嫌われることなんてないでしょーが。つーか向こうもウンとか言いやがるしよ。もう俺、ほんっとオンナゴコロが分かんない」
 2杯目のビールを、今度は口をつけないで両手の中で持て余すように転がして、アニはまだぶつぶつと呟いている。もう時間は深夜の2時を回っていて、平日ということもあり客はアニひとりだけだった。アニが来なければ看板を降ろしてたところだ。つ、とカウンターを出てドアに向かう。とうとう机に突っ伏して、まだモゴモゴ言ってるアニの声は、俯いてるせいで今度はあまり聞き取れなかった。アニの声を背にしながらドアを開けて、店先ののれん(て・いうか)を取り外した。今晩はアニ貸し切りってことで。俺も飲みてーしな。
 のれんを片付けて店先の電気を消した。店に戻ると、アニが起き上がって振り返る。
 「マスタぁ〜ど〜こ行ってたんだよお〜〜」
 「ちょっとなー、ちょっと」
 「今日は飲むんだからなー付き合えよお」
 「分かってるって」
 カウンターに戻ると、もうひとつ大ジョッキを出して来てまたなみなみとビールを注いだ。なんかな、俺ら21でこんな毎晩ビールばっか飲んでたらすぐ腹出て来そうだよな。俺はまあ、もうカミさんいるからいいけど、お前らそれ以上モテなくなってどうすんだよ、特にアニとバンビ(笑)。
 ぐい、と一口飲んだ俺のビールを、アニがじっと見ていた。
 「なによ」
 言って口を離すとアニがそれ、と指さして来る。
 「マスターのビールの方が旨そう」
 「どっちも同じだっつーの」
 「いーや!そっちのが旨そう!換えて!」
 言うが早いか高速の動きで俺のビールを横取りした。あっ、こんにゃろ。それから自分の手の中で持て余していたジョッキをずいっ、と俺の方に押し出す。はい、マスターはこっち。
 「アニってさあ…絡み酒だよなあ……」
 小さく息を吐く。いや別に、こんなのは初めてじゃないし、アニがそうやって女に振られるたびに主に俺がとばっちりを食って来たわけだから、慣れてるっちゃー慣れてるけど。
 18でセツコさんと出来ちゃった結婚をした俺が言うのもなんだけど、アニもそこそこソウジュクでタカンなセイシュン時代を過ごした筈だった。ざっと付き合った女の数ならキャッツアイのメンバーで一番多いんじゃないかな。だけど内容はというとこれが最悪で、最短で2時間?んなもん付き合ったうちに入るかっつーの。だけどその2時間でとりあえずいただいちゃったりしてるあたりが抜かりなくて、むしろ哀れを誘う。
 男の俺から見て、アニはいい男だと思うけど。
 顔だって悪くないし、ちょっと頭は悪いけどスタイルも悪くない。ファッションセンスはまあ、俺から言わせればどうなのよそれ?って感じだけど(だけどそれはお互い様らしい)ぶっさんやバンビに比べたら全然イケてる。性格も、気のいいやつだ。口ではああ言うけど実際弟の純のことも大事にしてるし、仲間思いで、場の雰囲気を創れる男。
 「振った女の方がバカなんだって」
 「なー!そう思うよな!木更津の女は見る目がないんだ!やっぱ東京だよ東京ー!」
 「いや、セツコ先輩、木更津の女なんだけどな」
 「あーっ今の嘘!」
 手の中のビールを取り上げる仕草をすると、アニが慌ててそれを阻止した。覆いかぶさるようにビールを死守したアニと、カウンター越しに目が合う。みるみるアニの頬が膨らんで、次の瞬間、ブハッ、と吹き出した。
 なにがおかしいんだか、腹を抱えんばかりにゲラゲラ笑って(アニは笑い上戸でもあった。タチ悪ィよなーつくづく)気が付くとカウンターに突っ伏して眠り込んでいた。うわ、これもまただよ(笑)。
 飲みかけのビールを一息に飲み干して、カウンターを出る。いつもはうっちー専用の毛布を取り出して来て、アニに掛けてやった。毛布の感触にアニがなにか口の中でムニャムニャ言いながら軽く身じろぎをする。その頭に手をやって、少し乱暴にかき混ぜた。柔らかい金髪が指に絡んで、するすると抜けた。
 「ま、そのうちイイ女が見つかるって」
 男かも知れないけどな(笑)。
 時計を見ると4時を回っていた。あー、俺もなんか眠い。俺ってすげーいいパパになるよなあ、とか自画自賛しながら自分もソファに横になった。つーか俺、既にパパだけど。もうすぐ3人目生まれるけど。どうせなら子供9人作って野球チーム作りたいよなー。って、セツコさんに殺されるか。

 そんなことをつらつらと考えながら、俺もいつしか眠りについた。








 ・・・・・その朝。(余談)


 「なんでアニがここで寝てるわけ―――!」

 朝一番に店に入ってきたバンビが開口一番・そう叫んだ。
 うるせーよ朝っぱらから。つーか俺、鍵閉めてねーし。つーかバンビお前学校は。なんで朝イチにうちに来てるわけ。アニの匂いには敏感なんだよなあバンビ(深読み大いに可)。
 つっこみどころがイマイチ掴めなくて、どうでもよくなった。丁度いいや。俺もいい加減、布団でキッチリ寝たいしな。
 「なんでもいいからバンビ、アニ連れて帰ってくんね?当店はたった今を持ちまして閉店でゴザイマース」
 言うが早いバンビにアニを乗せて、強引に送り出した。要領が飲み込めないバンビは、それでもアニを引きずって出て行く。分かりやすいよなあお前。ほんっと、分かりやすいよ(目を細めてみたり)。




 ああアニお前、性別さえ問わなければ、お前を絶対に振らない奴がすぐ近くにいるのにな(笑)。





■■■アニとマスター。

マスターんところがミッドナイト5時まで営業と知った時から、一度そんなネタを書いてみたいと思ってたんですが。昨晩・電話中にそういえば猫愛メンバーの中でツカモトだけ19才・未成年なんだよねえ?という話になって。打ち上げでひとりビール飲めないんじゃん、サクライとかこれ見よがしに目の前でグビグビ飲みそう!(笑)とか、イヤまあこれはこの際いいんですが(笑)。そんなこんなで酔っ払いアニの話になりまして。振られてばかりいそうなアニは振られるたびにマスターんところに転がり込んだりしたらいいのにーとか。そんで結構な絡み酒・甘え酒だったらいいのにーとか。挙句寝てしまったりしたらカワイイのにーとか。夢広がった結果がコレです。合掌。ちなみにあたし的にマスターは素敵パパ素敵ダンナなのでマスター×アニではなくあくまでマスターアニの方向で(微妙)。ちなみにバンビが出てきたのはまるきり趣味です好みです嗜好です。ハハハ。すみません。

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