a Day in Our Life


1999年03月01日(月) 想うということ(徳福+後)


 「俺、徳井くんの事好きやで」

 福田はそう言って笑ったのだった。
 その顔をじっと見たままの徳井に向かって、ほんまやで、と念を押す。ほんまにお前のこと好きやから、何をしてもええねん、と言う。
 「後藤さんとしとるような事も、俺にしてくれたらええねん」
 徳井が後藤と浮気をしているのは知っていた。
 浮気、と簡単に定義していいものかどうかは正直、分からない。自分と徳井の関係の複雑さ程度には、やはり複雑に入り乱れた彼らの愛憎を福田は何となく分かる気がする。それは徳井のせいでも後藤のせいでもない、むしろ福田の側にあるのかも知れないとも思う。
 徳井がその性癖を、長所とも短所とも捉えているのだと思っていた。
 けれど、自分達の間で徳井から無理難題を乞われた事は一度もなかったから、それは福田が思う以上にノーマルだったから、恐らく徳井は福田を思って、そうしてくれていたのだろう。
 けれど、じゃあ徳井自身の自由はどこにあるのだろう?と思う。
 嗜好なんて簡単に変えられるものではないから、それは福田だって同じ男なのだからよく分かる。だからその為に、徳井は福田の知らない何処かで、誰かに対してその欲を開放しているに違いなかった。
 そして恐らくそれが、今のところ後藤なのだった。
 それそのものを怒りとは感じない。むしろ徳井に対してもっと優しくなれなかった自分が悪いのだろうと思った。だから、福田は福田なりの決意と覚悟をして、そう言ってみたのだ。後藤の代わりだってするから、と。
 けれど徳井は泣くような顔をして笑った。
 「福田の気持ちは嬉しいけど、それは出来ん」
 「何で」
 「ふくが好きやから」
 意味が分からない、と福田は思った。
 好きなら抱けばいい。それが例えどのような抱き方であっても、福田は受け入れると言っているのに。出来ないという徳井は、けれどとても穏やかな笑い顔を浮かべて福田を見た。
 その視線に、囚われる気がする。
 徳井はむしろ、福田を広く開放しているのに。何故だろうと福田は思う。服を着たまま抱かれたような気分になる。身体の奥からむずむずと這い上がる、寒気に似た感覚。それが徳井の愛情だろうか、と思った。
 「ふくにだけはそんなん、死んでも出来へん」
 言葉と裏腹に徳井は今にもそうしたいようにも見えた。
 だからそれは、徳井の一世一代の覚悟と決意であり、底なしの愛情と執着なのだった。
 福田に対して何事もする事は出来ない。自分の欲に流されるまま、福田を玩具のように扱いたくはない。例え悶えるほど魂がそう欲しても、絶対に。
 まるでそうする事で、福田を永遠に手に入れることが出来ると信じているかのように。願掛けにも似た切実さで、徳井は頑なに首を横に振る。
 そんな徳井をじっと見た福田は、切なげに目を伏せた。
 「それが徳井の気持ちやねんな」
 それは解るし嬉しいと思う。けれど、と福田は言う。
 「やけど…何やろ。何か」
 虚ろな目をした徳井と目が合った。互いに瞬きもせず見つめ合う。視線から想いが届けばいいと思う。どれだけあなたを愛しているか。余すことなく届けばいいのに。
 「何か…寂しいわ」
 
 微笑う顔は、菩薩にも似ていた。


***


2007/07/26

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