a Day in Our Life
川島はこれまでの経緯をポツリポツリと話し出した。 もともとの川島は饒舌なほうではないからそんな話し方は不自然ではなかったけれど、ところどころで考えこむよう口を噤む川島からは戸惑いや混乱を感じられた。 田村は辛抱強く相槌を入れながら川島を見つめる。 出会った頃に比べだいぶ垢抜けた相方の人間らしい姿。 ときおり、福田を見つめ髪をすく川島の表情が柔らかかったから、田村の口元にも笑みが浮かぶ。
思えば、いつの頃からか感情表現のへたくそな川島が、福田には突っかかってみたり挑発行為に走ってみたりとらしくない行為を見せていた。 そんな川島を最初の頃は田村が宥めたりもしていた。確かに頼りない先輩ではあるけれど、ええひとなのになぁと首をかしげていたくらいで。 それが愛情の裏返しだと気付いたのは割と最近だった。 とある番組で共演したときチュートリアルの楽屋に挨拶に行けば、携帯を弄っている徳井と台本を読んでいる福田がいて、他愛もない会話を交わしていた。 よくある光景だったのに、なんだか少し、空気がおかしく見えたのは疲れているからだろうと田村は思ったのだが、川島は違った。表情を歪めると福田に例によって絡みはじめる。 アレ?っと思ったのは川島が絡んだことで、おかしかった空気に動きが出たからで。今思えば、川島なりのフォローだったんだと気付く。 それから気をつけて見れば、川島の福田への気持ちはわかりやすかった。
長い時間をかけて話し終えたら、重荷を下ろしたような気持ちになる。ただ話を聞いて欲しかったのだと川島は今更ながらに気付いた。 「かぁしまは、福田さんをどうしたいん」 「どうしたいんやろ。わからへん」 大切にしたい、救いたいという気持ちが先走っていて、改めて何をどうしたいのかと具体的に聞かれても川島は答えられなかった。 そんな我ながら頼りない心持に田村は気づいているのだろうか。 「強いて言えば笑ってほしいんやけどな」 正直に述べれば、田村が穏やかに笑う。 「ええな、それ。笑顔が一番やもんな」 「お前がいうと説得力あるわ」 「そうやろ。やからな、アキちゃんのやりたいようにやればええよ」 少なくとも俺は味方するよ。 そう言って目がなくなるほど笑った田村の慈悲深い眼差しに、川島は意味なく泣きそうになった。
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マンションに着くと、後藤は徳井を引きずってベッドまで連れて行く。 床に転がしておいてもよかったのだが、そんなことをして体調でも崩されたら堪らないと妙なところで責任感を発揮してしまったのが運の尽き。 起こさないよう下ろそうとして、徳井の腕が離れないことに気が付く。 「とくい? 起きたんか?」と声をかければ、はっきりしない返答。酔っ払いの遠慮のない力に背中から抱きしめられ、後藤は振り払うことが出来ない。 そんな体格差からくる力の差が悔しい。 「こら、はなせや」 お姉ちゃんやないねんぞ、と怒鳴っても無駄で、依怙地になったのかぎゅうぎゅうと腕の力を強めてくる。 「とくいっ」 「今日だけやから……」 「あほか!」 俺を身代わりにしようとすんな!と身を捩れば、徳井の目とあう。少しだけ赤かったが酔いは醒めている。 静かな深い闇を湛えた目が、後藤の姿を捕らえていた。 逸らしたくなる気持ちを懸命に抑える。今逸らしたら、何かが変わる。直感的にそう感じた後藤は一歩も引かず、徳井の視線を受け入れる。 先に目を逸らしたのは徳井だった。 「起きたんやったら顔くらい洗えや」 のろのろと頷いて洗面所へと向かった徳井の後姿を見送って、そっと溜息をついた。
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kaleidoscope【20】 2007/09/06 Kanata Akakura
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