a Day in Our Life


1999年01月06日(水) 006:相反



不意に、握り締めていた携帯が震える。
相手を確かめずに出れば誰よりも先にスタジオをあとにしたはずの田村だった。珍しく切羽詰った田村の声。
「そこにまだ福田さん、居る?」
「おるけど、なんや」
「ほな、もうちょいそこで待って貰うてええか。もうすぐ薬局に着くから薬買うたらすぐそっち行くから」
「それより病院へ連れていくわ」
思いもかけないことを言われて驚きつつも、そういえばこういう気遣いは自分より田村のほうが出来ることを思い出し納得する。
きっと、福田の不調に気づいて後先考えずに飛び出したのだろう。それでも苛ついていた川島は、その気分のまま尖った声を出す。蒼白な顔のまま福田が川島をみていることに気づかず、川島は宣言する。
「マネージャーに連絡頼む。福田さんのマネージャーの番号も聞いて。病院ついたらまた電話する」
一方的にまくし立てると、通話ボタンを切ってしまう。
「ちょぉ、かわしま。大丈夫やって、こうして休んどけば」
「大丈夫やないでしょ。そんなまっしろな顔してて」
もういいです、黙ってください。
無意識に福田の頭を撫でれば、びくりと肩を揺らし、それから諦めたように大人しくなる。そんな福田を自分にに寄りかからせて川島はタクシーを一台呼んだ。

結局「仕事に穴をあけさせるわけにはいかない」という福田の懇願に負けて、診察が終わったら川島にも連絡を入れるという約束と引き換えに、福田を診療所で下ろすとそのまま次の現場に向かった。
ぎりぎりで控え室入りした川島に、田村が心配そうに駆け寄ってくる。
「福田さんは?」
「病院つれてった。福田さんのマネージャーにも連絡いれたから。さっきはありがとうな」
「それはええねんけど、川島、お前も大丈夫なん?」
心配顔を崩さず、田村は声を潜める。
「凄いかおしてんで。お前も病人みたいや」
「俺はええねん」
なおも食い下がる田村に被せるように、収録が始まるからとADが呼びにきてその場はそのまま有耶無耶になった。

幸いといっていいのかこの日の仕事は雛壇での賑やかしが主だったから、ともすれば上の空になりそうな収録を川島は努めて冷静に乗り切った。
収録を終えて真っ先に携帯をチェックすれば、連絡の入った形跡はない。
「川島、病院行くん?」
「ん。今日はこれで終わりやからな。まだ連絡ないってことは病院おるんやろうし。けど、田村もよう気づいたなぁ、福田さんが具合悪いって」
収録中、ずっとひっかかっていたことを投げかければ、目に見えて動揺しはじめる相方に目線だけで先を促す。
だが歯切れ悪く気まずそうな表情を浮かべ口篭る田村に、川島は意識してドスをきかせて低い声を出す。
「はっきりせぇ、玄米」
「や、あんな、あんとき徳井さんと一緒やってん」
しどろもどろになりながら田村は言葉を続ける。
「福田さんは、徳井さんに気づかれないよう振舞っとったんやろ。やから徳井さんが気付いたって気がついたら余計気にするからって。薬買うたら俺に持っていって欲しいって」
「なんや、それ」
自分でも退くぐらい不機嫌そのものの声音になったことにも気がつかず、川島は顔をしかめる。
なんて欺瞞に満ちた行動なんだろう。――徳井も、福田も。そんなの、思いやりでもなんでもないのに。
「あ、やから川島、福田さんには内緒にしてや」
「わかった」

そう、徳井がそういう行動取り続けるのだったら自分は自分のやり方を貫くだけだ。



***



kaleidoscope【6】
2007/08/27 Kanata Akakura

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