a Day in Our Life
1999年01月03日(日) |
003:セカンド・ラヴ |
どうして今になって、そんな昔の事を思い出したのだろう。
あの時、屈託なく笑いかけられた福田の顔を思い出した。 後にも先にもそうやって、直接的に触れて来られたのはあの一回だけで、人懐っこい人なのだと考えた川島の福田像は、見事に裏切られた事になる。覗き込むように川島を見た目は、まるで川島自身を見透かされたようで。あっさりと浮かべた笑い顔は、とても好きだった人にダブって、眩しくもあたたかくも見えた。 今思えば、あの時の福田は、川島の悲しみに同情していただけなのだ。それすらがおそらく、無意識に。 本来、必要以上に人と交わろうとしないイメージの福田が、何故その時だけ川島に接近してきたのかなんて、川島には分かりようがないけれど。 それを運命だと情熱的に受け止める事も出来る。 だって、井上に似た笑い方をした福田を、その時初めて意識したのだと思う。あれ、この人はこんな風に笑うんだと気が付いて、しばらく目が離せなかった。その福田が、ぽつりと呟いた、言葉。
「寂しなるな。」
言って、本当に寂しそうな顔をした。 そう、寂しいだけだった。そう思おうと努力した。遠く離れていく井上を思い続けるのは、辛い事だと思った。それでなくとも慣れない初恋を、思い切る事が自分の為だと思った。そうする事で、きっとずっと自分は、井上を一生大事に出来る。 だから、辛さを隠す世間話のつもりで聞いてみた答えがひどく屈託がなかった事に、少しだけ苛ついた自分には、一瞬気が付くのが遅れた。 チュートリアルが東京に行くかどうかなんて、正直言ってその時の川島には全く興味がなかったのだけれど、井上も行く東京に、いつか目の前のこの人(達)も行くのだろうか、と思ったのだ。だから素直に問うたその答えとして、福田は川島が思うより随分と爛漫に笑って見せたのだ。
「どうやろ?徳井くん次第やな」
徳井くん、と呼んだその声色が、ひどく柔らかかった事にも気が付いた。それは、川島のささくれ立った神経を十二分に刺激するほど。自分達お笑いコンビは、コンビと言うからには相手があるもので。だから相方と呼ばれるもう一人を立てる事も多い。川島にだって田村という相方がいて、言動にはなかなか出ないけれど、大事に思っている。けれど、上手く言えないのだけれど、福田のそれは、もう少し何かが違う気がしたのだ。
今なら分かる、川島の考える範疇を越えて、福田が徳井をとても大切にしている事。それは徳井にしても同じ事だった。 神経過敏になっていたあの時の川島は、おそらく福田の声色ひとつでそれを敏感に感じ取ったのだ。そして、とにかく寂しくて仕方がなかったあの時の自分は、井上の事だけでなく、福田のそんな様子にすら、寂しいと感じてしまったのではなかったか。
自分と言う人間は、矛盾を抱えて生きていて。だから手に入らないものばかりを求めてしまう。 だから、まさか二度目に恋をした福田が、自分のものになるだなんて、思ってもみなかったのだ。
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kaleidoscope【3】 2007/08/23 Toshimi Matsushita
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