2004年10月01日(金) |
真木刑事とヒロキくん |
仕事終って「なに食べようかな〜」とご機嫌に帰ろうと署を出た瞬間。自分の姿をみつけ笑顔を浮かべながら歩いてくるオトコマエうを見つけ、またかと、その場を足早に立ち去ろうとしたけれど。
「真木ちゃん!」 「真木ちゃんじゃないって言ってるだろーが!」 呼びかけに反応してしまい、しまったと思ったが、すでに遅く。
「真木ちゃん」
にこにこと笑う姿は、正しく「アイドル」だった。
数日前。 脅迫文が届いたと事務所から警察に相談が持ちかけられ。たまたま非番で遊びにきていた真木を狙われている側の内がみつけ。
「この人がええ」
突然腕を引っ張られ、よろめいた先には警察に似合わないアイドルスマイルなオトコマエ。「なにが?」と聞き返すのが一歩遅かったせいで、スーツの人達に値踏みするように見られ。なにがなんだかわからないと傍らの課長を見たけれど、にこにこと笑ってる姿は「ちょうどいいのがいた」と物語っていた。
マネージャーを装いながら、警備をする。 それが、このときの真木の仕事だった。 警備なら、簡単だろうと引き受けたけれど。ふたをあければ、警備以上に難関で厄介な問題があった。 脅迫を受けたのは、男だけ七人もいるアイドルグループの一員で。自分とそんなにかわらない年のやつもいるせいか、丸っきり舐められていた。 スーツで登場すると「似合わへん」攻撃。仕事も終り帰ろうとすると「ご飯食べよう」攻撃。元々仲のよい七人だったので、真木がくる以前からみんなでご飯という習慣があったといわれ、それならば止めることもできないと早く帰りたい気持ちを押さえながら、つきあっていた。実際、8人でご飯食べるのが多かった。刑事さんと呼ぶわけにもいかないよなあと、言えば「真木ちゃんでええやん」 真木ちゃんてなんだよ!と言ってもマネージャーなんだからしょーがないやんと言われ、言いくるめられ。気付けばメンバーは当たり前だが、スタッフや事務所のひとにまで「真木ちゃん」と呼ばれるようになっていた。 真木ちゃんて!?と思ったけれど、この仕事が終るまでの辛抱だと。そう言い聞かせていたのだが。
「真木ちゃん、ご飯食べにいこー」
何故か仕事終ったいまでも、真木ちゃんと呼ばれるのか。警備も終り、まったくの接点のない人達になるはずだ。 それが実際。日替わりで誰か遊びにくるようになっていた。 慕ってくれてるのだとろうかと嬉しく思うけれど。どうもそれだけじゃないような。舐めきった態度され、「真木ちゃん」と呼びつづけられたら。警察の威厳 が丸つぶれだと。だから署に遊びにくるなと言い続けても聞かず。じゃあ外で待ってれば問題ないんでしょ?といわれたら何も言えず。
「だめだ。まだ仕事あるんだから!」 強く言い放つ。正当な理由だし、これなら諦めるだろうとおもいついて、早速使ってみたのだが。
「でも、課長さんが真木は帰るとこだぞーって言うてたよ?」
課長ー!! なんでそんなこと言ったんだと叫びたかったけれど。 娘がファンだからと嬉しそうにサインをもらっていたのを思い出し、身内も敵かと、がっかかりと肩を落とした。
「・・・わかった。ご飯付き合う」 「ほんま!?」 「ああ。そのかわり、サングラスと帽子被れよ」 「うん!」
「やったー!」と嬉しそうに笑う内を見て、かわいいなと思う時点で負けなんだろうと、思った。
こんな生活、いつまで続くんだろうな・・・・
通り過ぎる人の振り返る視線を受けながら、真木はためいきをついた。
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