2003年09月30日(火) |
『病』(内→ヒナ?) |
楽屋に入るなり、安田は大きな犬…・もとい、内に呼ばれて再び廊下に引っ張られてしまった。 相談があると、深刻な表情を浮かべられて。いったいなんなのだろうと安田が息を飲む。 いつも能天気すぎるくらいのほほんとした内を見慣れているから。こんな表情をした内は初めてで。よっぽど重大な問題を抱えているのだろうと構えた。
「俺、病気かもしれへん…」 「え?病気?」 どんな悩みを抱えているのだろうと思ったら、まさか病気かもなどと言われるとは思っていなくて。そらえらいこっちゃやと安田は慌てた。
(え〜と…・とりあえず、どんな病気なのか聞くのが先やな!それ聞かないと報告できへんもんな!)
「どんな病気なん?」 「んとなあ…この頃、胸が痛くなんねん」 「胸?」 「うん。村上くん見てたらそうなんねん」 「…・え?」 「最初はな、村上くん見てたら心臓バクバクなったりしてたんやけど。この頃は痛くなるときがあんねん」 「え…・??」 「病気かもしれへんって本読んで調べたら、「不整脈」ってのと同じ症状やねん」 「はあ…・」 「やっさん、俺死んでまうんかなあ?」
しごく深刻に訴えてくる内の表情に、言った言葉が嘘でも冗談でもないことを告げていた。
誰かを見てると胸がどきどきしたり、胸が痛くなる。
それは正しく、「恋の病」というものだろうということは、誰もが思い当たることで。 話を聞いただけの安田でさえ、すぐに思い浮かぶのに。なんで当事者である内は気付かないのだろうと、安田は頭を抱えていた。 「それ、病気ちゃうで…」 「え?そうなん?」 「…・多分な、それはすぐに直ると思うで」 「え?どうやったら直るん?」 目をキラキラさせて期待いっぱいに見つめてくる内に、安田はため息をもらした。 まったく、なんでこんな簡単なことに気付かないのだろう。内のあまりにもな天然っぷりに、少しだけ、内の未来が心配になったりもした。
恋の病なのだ。 直る方法はただ一つ。
(そんなん、告白したらすぐに直るわ)
成功しても失敗しても。その気持ちに決着がつけば、心の整理がつけば。直る。
(けど、なあ…・)
どうしようと、途方にくれていた。 相手は先輩で同じグループで、しかも「男」なのだ。 普通ならば変に思われて、避けられるかもしれない。だから内には告白などさせずに諦めさせたほうがいいのではないかと思った。
「ええ方法があるで」
急に後ろから聞こえてきた声に、驚いてふりかえると。いつのまにそこにいたのか、錦戸が珍しく笑顔で立っていた。 「村上くんのそばにおったらええねん」 「そばに?」 「ちょ、亮ちゃん!」
何を言い出すんだこいつはと安田が慌てて止めようとするけれど、それをキレイに無視して言葉を続ける。 「ああ、心臓痛いのも村上くんが原因なんやから。その原因にくっついたらええねん」 「そんなんで直るの?」 「大丈夫やって。ほら、ちょうど村上くん来たし。くっついてきてみればわかるわ」 内の背中を押しながら錦戸はにっこりと、誰もが見たことのないような笑顔で言うと。それに安心したのか内が大きく頷いて村上の元へ走っていった。
笑顔で抱きつく内と、それを一生懸命引き剥がそうとしてる渋谷。そして困ったように笑う村上を見て、えらいことになったと頭を抱える安田。 内の性格から、きっと全力でひっつくようになるだろう。そうなると渋谷や横山など、村上のそばにいる人達が黙っていないだろう。 嵐のくる予感に、安田がどうしようと悩んでいると。
「おもしろくなったな」
さきほど内に見せた笑顔とは程遠い…・今の安田にとっては悪魔の笑顔にしか見えない表情を浮かべて、錦戸が呟いた。
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