2003年10月05日(日) |
『夜』(チームの栄太(内)×村上?) |
「愛とか好きとかって気持ち、よくわかんない」
彼が、しごくまっすぐな目を向けて、言ってきた。
ある事件がキッカケで、保護監察の立場になってる彼が自分がよく利用してる店に現れてから数週間たった。 だいたいの経緯は聞いていたから、本人を目の前にして動揺などといった感情はわいてこなかった。 その店はそーいう人を引き取るとこらしいので。そんな状態の人は今まで何人か見守ってきたしみな、まっとうに仕事をこなしていたし。 だから今回のやつも、どんなことをやらかしたのかまではわからないけれど。まあ、大丈夫、普通のやつと同じだろうなんて勝手に思っていた。
しかし、彼の『闇』を知ったとき。 今まであった誰よりも、かわいそうな子なのだろうと感じた。 いや、かわいそうなんてものではなく・・・・・悲しいと、思った。
人にとって最も大事かもしれない、好きや愛という感情をまったく持ち合わせていない。 好きな音楽や好きな食べ物というのはあっても、人を好きだと思う感情だけ欠落していた。 例えば、ある人の音楽は好きだと言うが、その人は好きかと聞くと「別に」と答える。 人に対する感情を持っていないのだ。 それに気付いたとき、彼のことが気になりだした。 どうしてそんな風に思うのか、そんな風になってしまったのか。 それは聞いても答えないだろうし、聞こうとも思わないけれど。
聞いたところで、彼の過去が変えられるわけでもないのだから。
俺に出来ることは一つ。
彼のカラダをぎゅうっと抱きしめた。
「なに?」 彼が、不思議そうに見上げてくるのに構わず、さらに強く抱きしめる。
愛や恋を知らない彼に、それを教えたいなんて傲慢なことを考えたわけじゃないけれど。 せめて自分が今思った気持ちを伝えたいって、そう思った。 愛しいと、感じる気持ちを。少しでも伝わったらいいなと思った。 言葉で表すのは簡単で、だけど彼には伝わらないような気がした。 その言葉の意味を知らない彼だから、言っても意味がない気がした。 だからせめて、このぬくもりが伝わればいいと願った。
「あったかい」 言葉とともに、抱きしめ返される腕の強さを感じて。 ほんの少しでも、伝わったのかもしれないと思った。
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