2002年03月20日(水) |
「日常」(沢黒内で遊んでるだけの小話) |
梅雨も明けて、そろそろ夏の太陽が照り出してきた7月。 俺たちは、いつものように三人で他愛もない話をしながら歩いていた。 「なあ、腹減ってねえ?」 「減ってる〜。ラーメンでも食う?」 「お!いいねえ。慎も行くだろ?」 「ああ」 慎の返事で決定し、行き先に向かって歩き出す。 ここのところ馴染みとなった、学校近くのラーメン屋。 値段も手ごろだし、量もそこそこあるってことで、よく行くようになった。 今日もそこに向かっていたが、ふと気付いたことがあった。 財布の中身。 確か、昨日ゲーセンで使いきって、そのままだったような気がした・・・・ 「ところでうっちぃ」 「あん?」 「・・・・いくら持ってる?」 「・・・・オマエは?」 黒も同じこと考えてたらしく。 お互い顔を見合すと。 「・・・せーの!」 声とともに出した手のひらを見る。 そこにはお互い、小銭が握られていた。 「なんだよ、368円って!」 「オマエだって191円しかねーじゃねーかよ!」 俺が368円。黒が191円。 二人合わせてもラーメン一杯に及ばない。 それでラーメン食おうとしてんだから、いい性格してるよな(お互いサマだっつーのBY黒) 「なんだよ〜せっかくうっちぃにおごってもらおうと思ったのによ〜」 「オマエ!そんな思ってたのかよ!」 さらりととんでもないこと言いやがったぞ、こいつは。 お金ないのを知っててラーメン屋行って、俺におごってもらおうって算段だったわけだ。 「いいじゃん、たまには」 「よくねえよ!ったく・・・油断もスキもねえな」 ホントに、コイツはかわいい顔して結構油断ならない。 「で、結局行くのかよ?」 俺たちのやりとりを黙って見ていた慎だったけど、いい加減呆れてきたらしい。 このままじゃ帰ってしまいそうだった。 だけどそんなことさせられない。 俺と黒がラーメンに辿りつけるかは慎にかかってるんだから。 そこで俺と黒は同じこと考えたらしく、一斉に慎を見た。 「慎〜お金貸して」 「俺も〜」 「いいけど・・・・これだけな」 慎の手のひらには200円。 俺たちの持ち金とあわせると、759円。 ラーメン一杯600円なわけだから・・・・・足りねえじゃん! 「なんだよ!これじゃ二人合わせて一杯しか食えねーじゃん!」 「一杯食えれば充分だろ」 「はあ?このうら若き男の子2人がラーメン一杯だけで足りるわけねーだろ!」 「そうだ!一杯だって足りないくらいだっつーの!」 俺達の言葉に、慎はタメイキをついた。 呆れてるとか、そんな感じで。 「お前等なあ・・そうやってこの前も持っていったじゃねーか」 「あ・・・・・」 覚えがあった。 前回も金がなかった俺達は、慎から借りたんだっけ。 そのまま一週間が過ぎ・・・・すっかり忘れてた。 それを覚えてたのかよ。 奢ってくれてもいいだろう。 金持ちのくせに、意外にケチだよな、ちくしょう。 「なら二人で仲良く食うからいいよ!なあ黒」 「なあうっちぃ」 固く握手を交わす俺たちを、慎は冷めた目で見ていた。 ほんと、バカにしてるって感じだよな〜ちくしょう!
なんだかなとラーメン屋について、ラーメン2杯を注文する。 沢田がゆっくりと食べてる横で、俺と黒はひたすらラーメンに没頭していた。 つーか、お互いどれだけ食べられるか競ってた感じか。 水も飲まずにひたすら食い続けて、最後のチャーシューが残った。 これは、公平にジャンケンだろう、と思ったとき、横から箸が伸びてきた。 それを慌てて止める。 「てっめー!最後の一枚食おうとしただろ!」 「なんだよ、うっちぃだって狙ってんだろう!」 「この前オマエが食っただろうが!」 こいつは・・・本当に油断も隙もねえな。 そのまま天罰というように、箸で黒の鼻をつまんでやった。 「イテーよ!」 そりゃ痛いようにしてんだから当たり前だろーが。 そんなことして揉めてると、黒の横からすっと伸びる腕が見えた。
「あ・・・・」 「ごちそうさま」
何事もなかったように澄ました顔で言われた。 だけど俺たちはただ呆然としていた。 目の前の器を見ると、そこにはスープだけが残されていて。 ・・・・チャーシューが消えていた。 俺たちの最後の晩餐は、慎に持っていかれた。 「慎ーー!何食ってんだよ!」 「俺達の最後の楽しみを・・・・・慎ーー!」 「泥棒ー!」 「元々俺の金だろーが」 うっわ、そーいうこと言うか? それ言われたらなんも言えねーじゃねーかよ。 「ク・・・うっちぃ!」 「黒!」 俺と黒は見つめ合ったあとがっしと強く抱き合う。 「強く生きような!」 「ああ、こんな人でなしに負けないようにな!」 「あのなあ・・・そーいうこと言うと2度と金貸さねーぞ」 「そんな〜沢田様〜!!」 「ったく・・いい加減店出るぞ」
帰り道。 俺と黒で「荷物ジャンケン」(負けたら荷物持ちってやつ)をしよう!なんて言ってたら、慎が「何歳だよ、お前等」なんて言ってきた。 「一緒にいる慎だって同類だと思けど?」 「そうだよな。慎だって結構バカやってるよなあ」 「お前等に合わせてるだけだって」 「その言い方って馬鹿にされてるようなんですけど!」 「気のせいだろ」 この態度! ぜってーそう思ってるよ、コイツ! だけど、そういえば最初んときはコイツ、すっげクールぶってたよなあ。 教室で一人でいてさ。ずっと寝てんの。 俺なんかは「つまんねーやつ」なんて思ってたけど。 黒が話しかけなかったら、こうやってツルんでなかったかもしれねぇ。 「だけど、良かったよな」 「何が」 「こうやって、バカ出来るようになってさ」 いや、いいのか悪いのかわかんねーけど。 でも、こうやってツルんでられるのは・・・・良かったと思うよ。 「俺も。あんときより今の慎のが好きだし」 黒の言葉に、固まる慎。 でたよ、黒の爆弾。 コイツはわかってないんだろうけど、無意識にこーいうこと言っちゃうからなあ。 慎も苦労するよな。 「あ〜熱い熱い」 「な、なんだよ、うっちぃ!」 「いや、急に熱くなったなあと思ってさ」 「なんだよ!別に変な意味じゃねーよ!」 「変って、どーいう意味なよ?」 「う・・・・・」 「うっちぃ」 あ〜はいはい。 これ以上いじめんなってこと。 ホント愛されてるよな、黒は。
そんな話をしてたら、いつもの分かれ道に辿りついた。 「じゃーな」 「ああ、明日な」 手を振って、黒と慎は同じ道を歩き始める。 黒の家はまったく逆なんだけど、決まってここで別れる。 その理由は一つしかない。
「あ〜あ、さっさとくっつけばいいのに」
つかず離れずな二人を見てると、時々もどかしくなる。 けど、俺がどうこうできるわけじゃねーし。 多分、そのうちなるようになるだろーし。
「俺も彼女ほしいなぁ」
俺にもきっと現れるだろう隣に並ぶ相手。 それまでは、こうやって三人でバカやってんのもいいとか思った。
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