2002年03月21日(木) |
帰り道(バンビアニで純視点) |
この頃、やたら中込さんに会う。 家の前で素振りしてるときや走りこみの帰りなんか特に。 走りこみの時なんかはに偶然駅前で逢うっていうなら、帰り道に偶然逢ったくらいにしか思わなかったけど。
走ってても、素振りしても、学校終った後でも。
決まって、家の前で会った。 帰り道というには不自然だし(駅からうちを通るのは遠回りする以外ない)。 本屋に用があるというには遅い時間のときもあった。
違和感を感じながら、今日も決まった時間に素振りしてると、神社の方から中込さんが来た。 やっぱり、本屋に用があるってわけじゃなく、みまち通りより先のところに用があったわけじゃないらしく、角を曲がって真っ直ぐこっちへ向かってくる。
「よう」
軽く手を上げられて、会釈する。 兄貴とよくツルんでいるけれど、俺自身は中込さんとあまり面識なかったから特に話すことなんてない。 家が近くて小さいときに遊んでもらった田淵さんと違って、中込さんを知ったのは兄貴が高校のときエースだったからってだけで。 だからこうやって会っても、ただ軽く挨拶する程度だった。 中込さんもそう思ってるらしいから、いつもはそのまま通りすぎるんだけど。 その日は立ち止まって話しかけてきた。 「毎日やってんの?」 「はい」 「ふ〜ん」 なんでもない会話を繰り返していた。 いったい何が言いたいのかわからなかったけど、中込さんはそのまま動こうとはしなかった。 だけどどこか落ちつきない感じで、辺りを・・家の上?を見たりして。
なんだろう。何かを待ってる?
そう思った時、上から声が聞こえてきた。 少し高めの、俺にとって馴染み深い兄貴の声。 「よう、バンビじゃん。今帰り?」 「ああ」 中込さんの声が聞こえたんだろう。部屋の出窓を開けて顔だけ出した状態の兄貴に、中込さんは一言だけ返した。 だけど、答える中込さんの表情が変わったのを感じた。
・・・・ああ、なるほどね。
待ち人は、兄貴だったわけだ。 いつも不自然な帰り道は、この偶然が欲しいためだったわけだ。 毎日必ず家の前を通れば、何回かは逢えるだろうし。 今日みたいに立ち話してれば兄貴が気付くのはわかるだろうし。 なんかなあ・・・・・ 好きな相手に対しての中込さんの地道な努力はすごいとか思ったりするけど、それとはまた違った気持ちが過る。 「来週試合あんの聞いた?」 「聞いてない。日曜?」 兄貴の言葉に平然を装いながら、だけどさっきより明るいトーンで話す中込さん。 二人だけの会話になって、なんか居心地悪くなった俺はその場を離れることにした。 「純!気をつけていけよ」 兄貴の言葉に片手を挙げて答えて走り出す。 途中笑い声に振り帰ると、笑顔を浮かべてる二人が見えた。 それは昔から見慣れた光景で。
なんとなく、モヤモヤした気持ちを抱えながら走り出した。
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