塚本が、「ごくせん」にゲストとして出演することになった。 それに気付いたのは、台本貰ってからしばらくたってからだった。 今回のドラマはセリフや出番なんて限られてるから。 読まなくても撮影するときの雰囲気で出来るから。 それに覚える時間あったら寝てるし。
だから、それに気付くのが遅すぎた。 撮りの、前日に気付くなんて、さ。
塚本とは「バトロワ」以来の共演になる。 他の生徒役のやつとは何回も共演してるヤツもいたりするのに。 俺は、あの時だけだった。 まあ、学業専念してたからってのもあるけど。 それでも、あの時以来の共演。
正直。 また会えるってのは嬉しいと思うけれど。
だけど。 「キャッツアイ」に出演してから注目され始めて。 雑誌にもちょくちょく載ってて。 表紙飾ったりなんかもして。 今じゃ俺なんかメじゃないくらい大きくなった塚本。
今、逢っても。 あの頃のようには出来ない気がした。
なあ、覚えてる? あの時、命がけで守った男のことを。
撮影数日間を過ごした、あの頃。 撮影中は他の生徒の誰よりも一緒にいた。
あまりにも、遠くなった「過去」
「おはようございます〜」 あの頃と同じ、少し高めの声が響き渡る。 スタッフに挨拶しながら教室に入ってくる塚本。 どうしようか、と思った。 昔みたいに声かけるか? それとも、待ってるか?
だけどどうすることも出来なくて。 俺は何故か視線を合わせることが出来なかった。 だけど。 「松沢〜久しぶり〜」 俺を見つけた塚本は、嬉しそうに話しかけてきた。 その人懐っこい笑顔はあの頃と変わってなくて。 少し、ホッとした。
「じゃあ、後で!」 俺のそばを離れると、前に共演したことのあるヤツのとこへ去って行く。 そして、俺に向けたのと同じ笑顔を浮かべる。 俺の知らない相手と楽しそうに話す塚本。
あの頃は。 塚本が誰と話しててもソイツはクラスの生徒だったからすぐにわかった。 だけど、今は、それがどんな繋がりなのかわからない。 俺にはわからない世界。
やっぱ。 ・・・・遠い。
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