2002年03月07日(木) |
「おやすみ」(純アニ) |
高校野球の監督になってから数日が過ぎた。 ぶっさんに紹介されたときは戸惑ったけど。 始めてみれば、結構楽しかった。 好きな野球やってりゃいいし。 生徒も素直ないいやつばっかだし(それは下心ありなのだが、当然気付いていない) なにより、初めて人の上にたってるっつーのが、気分いいし。 まあ、朝早いってのはあるけど。 それでも毎日充実してるしなんの不満もない。
ただ一つ。 ある事のを除いては、だけど。
俺が受け持ってるのは「高校野球部」の監督なわけで。 そこには当然エースであり弟である純の姿もあった。 それが嫌ってわけじゃない。 気まずいかもとか思ったけど、今じゃ普通に話せるし。 昔みたいに比べられることの少なくなった今では、純に対してなんか思うことも少なくなった。 コンプレックスも感じなくなった。 アイツはアイツだし、俺は俺。 周りがなんか言ってても、別にいいや〜なんて思った。 だから、今では普通に話せるし一緒にいても別にいいと感じる。 けど。 監督になってから・・・純はすっげうるさくなった。 今までも「煙草吸うな」だのちょっと騒いでると「うるさい」だの言ってきたけど。 それは自分に対してのことだった。 純個人に迷惑なことだとすっげ口うるさく言ってきた。 けど、俺が監督になってからというもの。 「夜更かしするな」だの「遊ぶな」だの。 俺に対してのことを言うようになった。 まあ、夜更かしするなっていうのはわかるよ。 朝練があるんだから早く寝ろってことなんだろうし。 監督自ら寝坊すんなんて純にとっちゃ許せないことなんだろうし。 だからまあ、それはしょーがねえって思った。 けど、「遊ぶな」ってのはさあ。 俺には絶対無理! そりゃ野球好きだけど、野球一筋で生きていけるほど熱血してるわけじゃないし。 つーか、いくらなんでも遊びまで控えなくてもいいんじゃねー? 練習サボったりしなけりゃいいわけじゃん? 休みの日とかなんかは別にいいじゃん。 「兄貴は遊びすぎなんだよ」 普通だろ?とか言うと「兄貴の仲間が特別なんだよ」と返された。 それはそうかもしんねえけど。 だけど言い方が呆れてる感じでむかつく。 そもそも兄貴の俺に向かって命令するなっつーの! ・・・・うちじゃ歩合制だから純のが立場上かもしんねーけど。 だけど俺はあくまで「純の兄貴」なんだ。 それをあーだこーだ口うるさく言ってくるし。
「あ〜あ。こんなことなら監督引きうけんじゃなかった」 今日も俺の部屋には純がいる。 「見張り」とか言って夜は俺の部屋で寝ることが多くなった。 俺が寝るまで待ってるみたいだし、朝は俺より早く起きてる。 俺が目を覚ましてるときは純はそこに必ず居る。 監視されてるみたいで嫌だって言ったら 「兄貴は目を離すと何してるかわかんないから」 「なんだよ、それ!」 「小峰社長にヤられそうになってるし」 「う・・・・・・」 あの時のことは結局純にも伝わってて(ぶっさん辺りがおもしろがって言ったんだろうけど) なんかあるとすぐ言ってくる。 そりゃあんときは・・・・色々あったけど・・・。 直接的には純に迷惑かけてないんだし。 それにもういい加減時効だと思うんだけど。
「ほら、時間」 そう言われた途端、あくびが出てきた。 時計は0時を指してる。 前だったらまだまだ全然寝る時間じゃなかった。 けど、この頃は純に見張られてるせいでこの時間に寝るようになってたら。 いつのまにか習慣になってた。 「あ〜あ。この頃飲んでねーし遊んでねーし。 欲求不満だっつーの」 このまま大人しく寝るのは純の言う事聞いてるみたいでイヤだから。 文句言いながらベッドに横になった。 すると、イキナリ視界が塞がれた。 「俺が解消してやろうか?」 「いい!」 速効返事したら純はすぐに俺の上から体を退かした。 なに考えてんだかわかんないけど。 目の前で意地の悪い笑顔を浮かべる純を見たらロクなことじゃないって思った。 「なんだ、残念」 何がだよ! 聞きたいけど声に出したらなんかヤバイことになりそうで、言葉を飲みこむ。 「もう電気消すよ」 「ああ」 途端に真暗になる部屋。 いつも一人になる瞬間。 けど今はそこには俺だけじゃない。 「誰か」がいるって思うと、なんか不思議だったけど。 今は隣に純がいるのにも慣れた。 「おやすみ」 「ああ、おやすみ」 最初はなんか照れてた「おやすみ」って言葉も慣れた。
ホントはさ。 純が心配してくれてるのはわかってる。 だって。 遊んでて遅くなっても叩き起こせばいいだけじゃん。 それをこうやって言ってくるのは。 俺のこと、心配してるからなんだって。 ちゃんと気付いてる。 だけどそんなこと、言えないし。 「心配してくれてありがとう」なんて絶対言えないけど。 心の中ではいっつも言ってるよ。
赤の他人じゃない、小さいときからずっと一緒にいる弟。 大きくなるにつれて離れていたけど。 こうやってずっと一緒にいて。 純のそばは、意外と心地よいって気付いた。
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