桜が散って、春も終わりを告げる季節になった。 春の大会は、監督のせいなのかはわからないけれど、悲願達成を果たした。 「俺の指導がいいからだよな!」 そう言う兄貴の目には、涙が浮かんでいた。
泣き虫な兄貴は泣いてばかりで。 感動したとかむかつくこと言われたとか・・・悲しいことがあったとか。 俺の前でも平気で泣き顔を晒す。 その度に俺は嫌な気分になってた。 兄貴の泣き顔なんて、みっともなくて・・・・見たくないって思ってた。 心が、揺さぶられる。 ざわざわと落ちつかない気分になる。 それが嫌でどうにかしたくて、止めたくて。 だけど何も出来なくて、俺はその場にいることしか出来なかった。 見たくないのに。 こんな気分になるのは嫌なのに。 それでも、兄貴のそばを離れることが出来なかった。
だけど。 この時は不思議と嫌な気分にならなかった。 むしろ・・・・気分が良かった。 見慣れた兄貴の泣き顔。 だけど泣いてるのは、嬉しいから。 今までは理由なんてわからなかったしわかってもどうしようもなかったから嫌だったけど。 今は、どうして泣いてるか知ってる。
優勝したから。 試合に勝ったから。 俺が完投したから。
だから、兄貴は泣いてる。
それはつまり。 うぬぼれじゃなく俺が泣かせたも同然で。
俺のせいで泣いてる兄貴ってのは。 すっげ気分良かった。
「よくやった、純!」 昔よくやったように、俺の頭を撫でる。 前は子供扱いしてるようでむかついてたけど。 今はそれすら嬉しかった。
けど。 「おまえらもよくがんばった!」 そう言って、他の部員にも同じことをしてるのを見て。 いい気分だったのが一気に悪くなった。 「兄貴、みっともないからヤメロよ」 俺の言葉に兄貴は止めたけど。 周りの残念そうな顔を見て。 さらにむかつく気分になった。 それに 兄貴の泣き顔晒したくないって思った。 「ほら、行くよ」 戸惑う周りや兄貴に構わず、兄貴の手をとってそのまま歩き出した。
後ろからブーブー文句言う兄貴を無視してたら。 いい加減諦めたらしく大人しくされるがままになった。 「なんだよ、もうちょっと感動に浸ってもいいんじゃねー?」 「兄貴は感動しすぎなんだよ」 つまんねーとかいう声があがるけどあえて無視。 だけどあんまりうるさいからその口を塞いだ。 「ちょ・・・な・・・・」 「優勝したくらいで一々騒ぐなよ」 文句を言われる前に、こっちから言うと兄貴は文句を忘れて呆れている。 「優勝くらいって、オマエなあ・・・」 「これからあと何回もあるんだぜ。そのたびに泣くつもりかよ」 夏には大会控えてるし。秋もすぐだ。 俺がいる限り、優勝以外ありえない。 「何度でも兄貴泣かせてやるよ」 「泣かっっ・・てその言い方ヤメロよ!変に聞こえるだろーが!」 「でも事実だろ」 しれっと言うと、兄貴は深いため息をついた。 呆れてる感じがしてムカツいたけど。 でも今は気分いい。
これから先、何度でも。 ずっと。 俺のための涙は。 嬉しいときにしか流させないって。 心のなかでそっと。 誓った。
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