2002年02月12日(火) |
『バレンタイン」(亮ヒナ) |
楽屋に入ると、村上くんが一人でおった。台本に目を通してるからか、俺に気づかんと黙々と読んでいる。 そういえば、横山くんがマンガ読んでると呼びかけにも気づかないと怒っていたなと思い出しながら村上くんの斜め前に座る。 すると、俺に気づいたんんか村上くんが顔をあげて俺を見つめてくる。その真剣な表情になんだろうと身構えたら。「亮ちゃん・・」と呼びかけてくるのに「なんですか?」と返したら。
「俺からのチョコ、欲しい思うん?」
なんやのイキナリ。 チョコって、なんの話なん?なんでイキナリ「チョコ」で「欲しい?」になるん? わけわかっらん、と混乱してると、村上くんがポツリと話しはじめた。
「いやな、内が俺からのチョコ欲しい言うんよ」
で、なんでかあげることになったんよ、と苦笑しながら村上くんが言うのに、「ふうん」なんて曖昧に答えたけれど。 心のなかは「なんや、それ」という気持ちでいっぱいやった。 内が村上くんこと好きやのは知ってる。ハっキリ言われたわけやないけど。内の態度みてたらわかる。 村上くんに話かけられただけで嬉しいと感じてたあの頃。先輩で、あの頃は滝沢くんやすばるくんと仲良くて、自分なんか話しかけるのも躊躇ってた頃。 あの頃の自分と同じ表情を浮かべる内。それ見てたら、あの頃感じた気持ちが蘇えってきたりした。
精一杯、村上くんが好きだと思う心。
あの頃は純粋に村上くんが好きやった。横山くんとも今ほどツーカーでもなくて、特別な存在なんて感じなかったから、自分が好きでいてもまだチャンスがあると思ってたあの頃。 そのときの自分の気持ちに似たような気持ちを抱えてるんやろうなあ。 経験者は語る、でもないけど。内見てたら少し切なくなる。 その内が「チョコ欲しい」言うんの、よっぽど勇気言ったやろうな。 ヤキモチというより「がんばれ」と応援する気持ちのが強く感じるのは、やっぱ「戦線離脱」したからやろか? 村上くんを見つめてて、あの人は特別な相手以外には同じように・・・言うなれば「どうでもいい」ような態度とることを知ってから。村上くんの『優しさ』を勘違いせんようにしようと思った。 誰にでもああいう態度とるんであって、自分にだけやないぞと。村上くんの言葉一つに揺れるこころを抑えようと必死になってた。 だから、今の村上くんの言葉に揺れるわけがないと。そう思ってたけれど。この心の『揺れ』は否めない。 チョコ欲しい?なんて聞かれて、「欲しい」と答えてしまいそうな心。心をくれると言ってるわけではないけれど。それでも、「女の子から告白」するという特別な日に特別な人から欲しいと感じるのはしゃーないやん。
ああ、俺もまだまだ修行が足りひんな。思いながらも 「まあ、誰からでもチョコもらったら嬉しい思うんちゃいますか?」 なんて当たり触りない答えを返すと「そうなん?」なんて不思議そうな顔浮かべたあと。
「じゃあ、これ貰ってくれるん?」
言って、机の上に置かれたのは「チョコレート」 バレンタイン用に包装されたものではないけれど。この日にあげると言われたら立派なバレンタインチョコレートだ。 「なんやの、これ」 「ん〜?内用に買ったんやけど、一つだけ買うんも疑われそうやったから」 だから数個買ったから。亮ちゃんにもお裾分けしよう思った。 言われて、一瞬でも期待してしまった自分を馬鹿だと思いながら受け取る。 「くれるもんは貰いますけど」 自分への言い訳のように呟くと、「ありがとなぁ」と村上くんが呟く。 そして、「はい」と手にチョコを持って差し出す。 それに「はい」と素っ気なく言いながら、チョコを受けとる。
それは、かわいくラッピングされたものではないけれ。 今まで貰った何よりも『特別』だと、そう思った。
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