「生きているって何?」 不意にそのこは聞いた。 ひざを抱えたままソファーに座って、言葉を続ける。 「死にたいって生きているから言える事よね」 テレビからはいじめの被害者のインタビューが聞こえる。 「おまえはまた、おかしなことを言うな」 俺はコーヒーを入れながらそちらのほうをちらりと見る。 あいかわらず、テレビに見入ったままそのこは言う。 「そう?だって、おかしいじゃない。 死にたいって言ってるのなら死ねばいいのよ。 それを戸惑うって事は生きたいって事じゃないの?」 「確かにね」 微かな苦笑いがもれる。 「私は死にたいと言う事も生きたいという事も分からない」 呟くように言って顔をひざにうずめた。 俺はそいつの頭をポンと撫でて言う。 「今、ここにいる事が生きているということだ。 死とは全てから消え去る事。 ま、人によって答えは違うがな」 「そう…」 熱いコーヒーを一口飲み、彼女は黙った。
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