ゆうべのことば

2017年04月11日(火) 残酷な君に捧ぐ

ハルは誰にでも優しい
いわゆる博愛主義者の如く
美しさを鼻にかけることなく
儚げな香りをまとってほほえみ
気紛れな手でいともたやすく
別れの切なさに震える乙女の頬を撫で
新たな門出に向かう若人の背を押す

ゆえに誰もが凍えながら君を待ち侘び
君が去るのを惜しむのだろう

どれだけ皆に愛されようと
決してひとところに留まろうとせず
飄々とした足取りで音もなく通り過ぎ
後には痕跡さえ残さないから
苛烈な日差しにつむじを焼かれた者は
果たしてあれは幻ではなかったのかと
自らの記憶を疑う羽目になる

ゆえに人々はあらん限りの言葉を尽くして
君との思い出を記録するのだろう

寄り添うように温かな雫を降らせ
いっとう華麗に散る花弁を贄に
人の涙を美しい過去に変えてしまう
優しく残酷な季節にこの詩を捧ぐ


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小石ゆうべ [MAIL]

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