おちょこの日記
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2005年08月24日(水) さようなら、お父さん。


朝から寝ていないせいもあってぼんやりしていた。
意識外で今日が始まっていた。
兄が複雑な顔をしていた。
ああ、今日は兄ちゃんの誕生日だったものね。

朝ごはんを食べて、喪服に着替えていたら
姪っ子がコーヒーをこぼして叱られていた。
普通の一日の始まりのようだった。

隣の部屋では年寄りたちが朝の連ドラ『ファイト』を真剣に観ている。


父がまた祭壇に移動されていった。


御葬式開始。
今日も続々と人が集まっている。

お経を聞きながらお腹が痛くなった。
吐きそうだった。


最後のお別れです


耳がキーンと鳴った。

花が手渡された。
父の棺に花が入れられていく。
白い百合で埋め尽くされていく。

父の教師時代に可愛がっていた若い先生が目を真っ赤にして
棺から一歩下がって、深く強くお辞儀をした。
その姿からありがとうございましたと言う気持ちが強く伝わった。
その姿だけは今も、強く心に残っている。

最後は家族の番だった。
母が声を上げて泣いた。

湯灌の時に入れた筆や、孫の描いた絵。
父は花に埋もれている。
まだ動いているような錯覚は消えない。
お願いだから目を開けて。
そう、願った。

棺の蓋がしめられた。
アタシは兄に支えられながら歩いた。
一歩一歩父の最期が近づいてる。

火葬場に向かうバス。
何処にも行きたくないのに。

大きな長いクラクション。
もう、アタシは泣きすぎてボロボロだった。

火葬場までの道、前を走る霊柩車。
母は何を思っているのだろう。
アタシは何を思えばいいのだろう。
この道が永遠に続けばいいのに。

火葬場は独特なにおいがした。
やけにキレイで明るかった。
小さな部屋で父の肉体と最後の別れ。

御別れの後は喪主と施主だけ残ってくださいと言われた。
母はそれをよしとはしなかった。
あんたたちも残んなさい。
最後まで一緒に。
火葬場の人は別にいいけどって顔をした。

そしていよいよ父を焼く時が来た。
父が燃えてしまう、
嫌だ!やめて!
泣き叫んだ。手を前に伸ばして。

次男がアタシを抱きしめて抑えた。
それでもアタシはものすごい力で動いた。
兄は120キロある、それをも動かした。
あわてて長男もアタシをおさえた。
アタシはやめて、嫌だ、お父さん!と泣き叫んだ。
父を燃やすのなら一緒にアタシも燃やしてと思った。

そして扉が閉まった。

アタシはあの瞬間を忘れない。
心臓が凍るような、止まるような光景を。

立っていられなかった。
あとはもうあまり覚えていない。

1時間後に父の骨を拾った。
ああ、もういない。
母から兄へそしてアタシへ父の骨が受け渡され箱に入る。



コトン。という小さな音がした。


骨になってしまった父の最初の声。


180センチの父が小さな箱に納まる。
嘘みたいだ。
みんながきれいに父を拾ってゆく。

父の腰の骨は癌が転移して色が変わっていた。
母は父のその部分を拾いたかったらしい。
これが…と母は泣きながら呟いた。

アタシはもう、そんなに泣いてなかった。
というより魂が抜けてしまったかのように立っていた。

骨になった父をまだ、現実として受け止めていなかっただけかもしれない。
扉が閉まったあの瞬間に、何かがアタシの中でも閉まったのだ。

最後に胸仏と喉仏を入れた。
母がその箱を持って、あーあという顔をした。

ただ、疲れていた。
もう、口を訊くのさえも。
家族みんなそんな感じだった。

式場に戻り繰り上げ法要をして、みんなを見送った。
そして、終わったんだ、長い1日がと思った。



今もアタシはその日の空や天気を思い出せない。




父がいなくなった日。
それだけが痛いほどに残る日。




さようなら、お父さん。









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