おちょこの日記
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短い夜が明ける。 数時間、眠った。 目覚めると雨が降りそうな天気。 ふと、携帯を見るとメールが来ていた。
カズからだった。
新聞のお悔やみ見たよ。 今日はお通夜だね、悲しいときは思いっきり泣け。 一度お逢いしておけばよかったかな。 ご冥福をお祈りいたします。
逢って欲しかった、 父さんはカズの事に余り触れはしなかったけど 逢って欲しかったよ。 アタシの好きな人を見てもらいたかった。 号泣した、胸が痛くなった。
今日、父が家を出て行く。 肉体としてこの家に居れるのはあと数時間。 今日はお通夜。
朝から葬儀を手伝ってくれる人たちが忙しそうに動いてる。 アタシは髪を整えてもらうことになった。
喪服を着るようだ。 母が、
『お母さんはお嫁に来たとき、喪服無くてねぇ…。 だからあんたには持たせてあげるからね。』
ってつくってくれたもの。 まさか、父の葬儀に着ることになるとは。 初卸が身内の葬儀は良くないんだけどね・・・。っておばさんが呟く。
結局、会場に行ってから着る事になった。
出棺の時刻が近づいてくる。 湯灌の儀が執り行われる。
何でこんなに物事は早く進んでいくんだろう? 時間の流れがすごく速く感じた。
案の定アタシは号泣。 誰の顔も見えなかった。 父を他の場所に運んでほしくなかった。
やっと帰って来たんだから。
父を5人がかりで棺に移す。 お棺の中で父は窮屈そうだった。
ゴメンね、お父さん。 こんな狭いところに入れて。 許してね。
父は笑っていた。
霊柩車が長いクラクションを鳴らしてゆっくりと走り去った。
もう、あの姿で父はこの家には戻れない。 頭が痛かった。泣きすぎて目が開けれなかった。
用意をして兄の車で葬儀場へ向かう。 大きなホール。 今日の葬儀は父だけらしい。
雨が降り始めていた。
祭壇はものすごい立派だった。 花輪も30届いていた。
家族ですごいねぇ、お父さんって、と呟いた。 そういえば家にも花がどんどん届いて断ったんだ。
父は愛されていた。色んな人に。
喪服に着替えた。 おばさんにすごく似合うわと言われた。 そんなん似合ってもな・・・。 兄ちゃんの嫁に、未亡人?って言われた。 結婚もしてないから・・・。
会社の人が葬儀に出られないからと先に来てくれた。 母とアタシは同じ会社で働いていた。 父の看護で辞めるまでは。
大丈夫?大変だったね? 涙が出た。 どうもありがとう、来てくれて。 ありきたりなことしか言えなかった。
葬儀の時間が近づいてきた。 会場はものすごい人の数で受付がテンパっていた。
300人の席を用意していた。 こんなに来るの?って家族は思ってた。 葬儀の直前に急遽、席が増設された。
あとで分かったが通夜、葬式で計600人余りの人が来た。 父さん、どこの著名人ですか?
父は教師だった、地域の文化活動にも力を注いでいた。 ジャズが好きで、演劇が好きで、絵を描くのも好きだった。 いろんな人を呼んだり(山下洋輔とか)東京の劇団を呼んだり、 個展を開いたり、何よりも人が好きだった。 だから、全国各地からたくさんの人が平日なのに父のためだけに来てくれた。
みんな父を大好きだったんだ。
アタシは一人娘で父の愛情を一身に受けて育ってきた。 父の愛情の純粋培養の中で育った。 どんなに期待に背いても父はアタシを可愛がった。 だから思春期とかにありがちな『父が嫌い』と思ったことは時は無い。 何時だって父と出かけた。飲みに行ったり、飲みに行ってるのを迎えに行ったりした。 他の人に羨ましそうにいいなあといわれて父は嬉しそうだった。 本当によかった、それが当たり前だった事が。 今はそれが辛いけど、最後まで仲良しな親子で本当によかった。
アタシは父を心から誇りに思う。
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