蛍桜

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傾いた太陽の光が差し込んで、淡いオレンジ色に彩られた教室。
その暖かい空気に包まれながら、きれいな指でさりげなくメガネを触る君は、とても美しくみえた。
この席から見える君の後姿。たまに揺れる長い髪。考え事をするときに耳を触る癖。
全てがこの世界の中にあったのに、僕はこの世のものだとは信じられなかった。
それくらい、遠くに感じた授業中。

その代わり、放課後の時間はとても好きだった。君と同じ空間に居られるから。
教室でいるよりも、もっと近くに。

部室の君は、教室とは違っていた。いつも友達と笑っていたね。
教室で見せる、無理な笑顔とは違った。そんな君が好きだった。
自然体で笑う君。
窓から吹き込む風と、その風でふくらむカーテン。
乱れる髪を片手で押さえて、なおも笑う君。

ああ、この太陽の傾きや、このやわらかい風が好きだ。
そして、ここにいる君が好き。

たまに他愛もなく僕に話しかける無邪気な君が、愛おしかったよ。
そして、かっこつけて話す自分が、少し嫌いだった。


君が、初めて彼氏ができたと友達と騒いでいた日も
彼氏と別れたと聞いた日も
好きな人がいるんだ、と恥ずかしがっていた日も

僕はずっと君を見ていた。
でも、見ているだけで。

もう3年になるんだね。長いようで短くて。
多分、本当に短い。
君は気づいてはいない。いつも僕が向ける、目線に。

部室にあるパイプ椅子に座り、君から少し目を逸らして、ため息をついた。
何をやっているんだろう、僕は・・・。
窓の外を眺めながら思う。

「どうしたの?なんか元気ない?」
君はこちらに歩いてきて、相も変わらず無邪気に笑う。
「なんでも」
あまりにも無邪気に笑うから、君と目を合わせることが出来ない。
君は、いつもまぶしかった。

窓の外が楽しいわけでもないのに、僕の目線はずっと窓の外を見るしかなかった。
その窓の外といえば、サッカー部がボールを巡って走っているだけで。
興味もないのに、それをじっと見ていた。
そんな僕を見て、君はそっと隣に腰を下ろした。
遠くで誰かが笑う声が聞こえる。自分を笑われているかのようで怖かった。

「・・・あっちもどらないの?」
「ないの」

君がふふ、と笑って沈黙が訪れる。
今日に限ってオレンジの太陽は、僕をジリジリと照りつける。
まぶしくて目を細めながら、なおも窓の外を見るしか出来ない。

「あ、そうだ」
君が言う。
「これ、あげるから」
そう言って差し出された袋。僕はその言葉が合図だったかのように窓から目線をはずすと、それをジッと見つめた。
「何?これ?」
そっけなく聞く。
「だって明日休みだし」
そう言って君は少し笑って席を立った。
「またあさってね」

部活が終わっても僕はしばらく、部室に居た。
完全に陽が落ちてから、徐に家路についた。


家に帰ってから、袋を開けてみると
中には小さな箱が二つあって、その両方ともが、違ったチョコレートだった。
お菓子のことなんて分からないけど、分かったのは手作りだっていうことと
両方ともがかなり手のこんでいそうなものだったということで。

そうか、明日はバレインタインデーか。
君を見ながら迎えたバレンタインはこれで3回目。
君が僕にくれたのは、初めてのこと。

期待してはいけない、と自分に言い聞かせるものの、自然と顔がにやける。
でも、と何度も思い浮かべるハッピーエンドの想像を否定しながら、実はとても喜んでいる自分が居た。

しかし、頭によぎる想いがあった。
僕が今まで一歩を踏み出さなかったのは、踏み出せなかっただけじゃない。
踏み出せない理由にはならないかもしれないが
僕には、「それ」の存在がとても大きかった。

ちゃんと聞いたことはないが、僕の友達が、彼女のことを好きなようなのだ。
僕は彼に、彼女のことを好きだと告げてはいない。
彼も、好きなんだよ、と告げてきたことはない。

でもきっとお互いに、分かっている。
だからお互いに、隠しあう。

初めは本気にさえならなければいい、と自分に言い聞かせていたが
そう思えば思うほど、頭と心は離れていった。

だから今、こうやって喜びながらチョコレートを食べている僕は
とても醜く思えたし、とても裏切った気分になった。

でも、たまに分からなくなるんだ。

本当に、本当にたまらなく好きなはずなのに
友達なんかに遠慮して、踏み出せないのは本当はそこまで好きじゃないってことになるんじゃないのか。
僕の気持ちは、嘘をつける程度のものなのか。

いくらそう自問自答しても、君を見てドキドキするこの心は変わらない、けど。



2月14日は休みで、それこそ、夢心地だった。
多少の罪悪感があったものの、この世界が柔らかく見えた。


だから尚更、その次の日の学校は、信じられないものだった。

学校に、カップルが増えているような気がするのは僕の心がひねくれているのだろうか。
バレンタインがきっかけで付き合うカップルがそうそう多くはないだろうと思うが
男女の笑い声を聞くたびに、なんだか切ない気持ちになった。
うらやましさが、少し醜い感情になって、自己嫌悪に陥って。

でも、そんな感情はちょろいもんだった。ごまかすのに慣れてしまった。


教室に入ると、冷やかされている二人組がいた。
その周りには数人が集まっていて、野次馬がいたり、冷やかしているやつがいたり、
その二人の友達らしき子が笑顔で祝福していたりした。
僕には関係ないな、と横目で見ながら席に座ったが、あまりにも騒ぐので目線をそちらにやった。
その騒がしさは僕に目を背けるな、と言いたかったのだろう。


現実を、見た。


ああ。
僕はなんて愚かなのだろう、と神様を恨んだ瞬間だった。

僕の友達と、愛しの君。
肩を並べて照れくさそうに笑う。
そして二人目線を合わせて、また笑う。
ああ。なんて、なんて憎いんだろう。

「あ」
僕と目が合った君が、こちらへ駆け寄ってくる。
その顔は、いつもの無邪気な君。でも恋をしている君の笑顔は、何かが違った。
僕のためのものじゃない。あいつのもの、だ。
「チョコ、どうだった?」
そんなこと、どうでもいい。
「おいしかったよ。ありがとう」
僕がそういうと君はえへへ、よかった、と笑う。そのせいで心が大きく震える。

「・・・ナオトにもあげたんだ?」
「うん、あれね、ナオトくんと、真鍋くんが二人一緒の時に、一緒に渡そうと思ってたんだけど、先にナオトくんと話す機会があって、流れであげちゃってね。でも、真鍋くんと話す機会がないまま放課後になっちゃってもう渡せないかな、って思ってたんだけど。渡せてよかったー。」
早口で話す君の話は、まるでつまらなかったし、喜びで饒舌になっているのか、まるで文法がぐちゃぐちゃだった。だが、現実を理解するのには充分な言葉たちだった。
「そう、なんだ」
「うん、で、ナオトくんとは・・・付き合うことになって・・・」
「・・・そうみたいだね」
興味なさそうに答えるのが精一杯だった。
僕の前で小さくなりながら照れる君を、僕は僕のものにできないのが悔しい。
「えと・・・」
少しいらついている僕に気づいたのか、君は少し気まずそうに顔をゆがませた。

「・・・おめでとう」
やっとこさ言えた言葉はそれだけで、笑顔も引きつっていた。
自分でも分かるくらいに。

それでも喜びに溢れていた君は気づかなかったのかな。
僕の気持ちに、気づかなかったのかな。

「ありがとう!」
とびっきりの笑顔で君はそう言って、僕のもとから離れていく。
ああ。どんどんと遠く。


君のありがとうは、どうしてこんなにも切ないのだろうか。
ありがとうだなんて言わないで。そんな言葉、ほしいわけじゃなかった。

僕が自信を持って、愛していると伝えればよかった?
誰かに遠慮することなく、一途な愛を描けばよかった?


答えは、どこにも、ない。



愛しているなんて、まだまだ小僧の僕が言える言葉じゃない。
そんな重みのある言葉を扱えるほど大人なわけじゃない。

だけど、伝えたかったな。


せめて。

「大好きだったよ」と。

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あとがき

この小説は、2月13日に書いたものなので、内容がバレンタインデーになっております。はい。
ある曲を聴いて、歌詞を読んで、そこから浮かび上がったイメージを
そのまま書いてみました。創作時間5時間くらい。
知り合いと純愛ものを書こう!ってことで書いてみましたが
これって純愛なのかよ!?っていう出来上がりです。ごめんなさい。

後日見返していくつか修正しましたが、まだまだいたらず。。。
もっと文章力がほしいものです(・ω・`)
そして私が書くと何故かハッピーエンドにはなりません・・・。

私も、夕方の教室とか、部室で笑っている人とか好きだったな。
そういうところからこのイメージはきているんだと思います。

Rainingに比べたら内容は分かりやすいかなぁーと思うんですが
まだまだなような気もするし・・・あうー。
とりあえず久しぶりに書いた小説で、少しぎこちないですが
なんとか書き上げたのでUPしてみます。

みんなにはどうやって見えるのか分からないし
多分見るほうによって感じ方も違うし
なんていうかもう、こんな恥ずかしい小説をUPしてもいいのかって
感じなのですが、まぁ見てやってくれると、うれしい・・・し
見てやってくれた人がいるなら、ありがとうございます。

これから暇があれば小説も書いていきたいし、詩も書いていきたい。
文章を書くのは私の喜びです。

その喜びで(自己満足ともいう)、何かを感じてもらえると嬉しいな。
感想とかもいただけると嬉しいな(ぁ)
精進したいので・・・ほんとに切実にまじで。本気と書いてまじで。

そんなこんなで裏話はあんまりない小説ですのでこの辺で・・・。
2012年11月11日(日)

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