蛍桜

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十人十色
音が一瞬止まった

私の足音も
いつもうるさい車の雑音も
風の音も
木がこすれる音も

すべてが止まった


ただ私が立ち止まっていただけ
ただ車が走っていなかっただけ
ただ風が止まっていただけ

だけど音が消えてしまった世界は
私をひとりぼっちにさせた

たった一瞬だったはずなのに
いつまでたってもそのときの恐怖が消えないで
たった一瞬だったはずなのに
とてつもなく長い時間に思えた


ただすべてが止まっただけなのに
どうして私は
ひとりぼっちな気持ちになったのだろう

すべてが止まったときに
どうして私の時間は止まらなかったのだろう







水が流れる音が聞こえるよ
でもそれが
どうして流れているのか
なんのために流れているのかは
私は知らない
未来に向かって羽根を広げて
流れるの、水は
いつまでも流れているの
どこにたどり着くかもわからないまま...


猫は伸びをしながら短くないた
またまるくなって眠りについた
その眠りから覚めるのは
いったいいつなんだろうね
私はそっとその猫を撫でながら
そのぬくもりと一緒に
猫が見ている夢を
感じ取る事ができた
にゃん、となくのはいつも隣
でも次はいつなくのかわからないまま
猫はいつ目覚めるのかわからないまま...


透明な花がそこにあった
梨も菜っ葉もそこにあった
風に吹かれてた
透明な花はきっときれいなはずなのに
私の前に姿を現してはくれない
風に吹かれている透明な花を
私は想像するしかなかった
どこにあるか分からない花を
私はいとおしく思っていた
風は花がある場所が分かっていた
私はその場所がわからなかった
花は私に姿をみせないまま...


真実だけが澄み渡ってる世界があった
その世界に私は
足を踏み入れる事を許してはもらえなかった
だけどいつも遠くから眺めてた
その世界には
ナニがあるのか分からなかったけど
どんなことがまっているのかは
分かった気がした
私がいるこの世界とは
まったく違う事はあきらかだった
その世界は私を受け入れないまま
私はその世界に受け入れてもらえないまま...


緋の色に染まった月は
秋の殺風景な闇に浮いていた
私はその光を受けながら
いつも心を刺されながら
ずっとずっと目をそらさなかった
緋の色をした月は
すべてのものを見ていたけれど
私は緋の色の月しかみていなかった
目をはなさなくちゃ、と自分に言うけれど
どうしてもはなれなくて
私はずっと見つめたまま...


キレイなドレスをまとって
姫はいつも花畑に留まっていた
私を待っているのかと錯覚させるくらいに
姫は私ににっこりと笑ってみせる
姫はいつも私を癒してくれる
姫は理由もなく
私の顔に布をかぶせてきた
かわいい子ね、とそっと笑った
理由もなく布をかぶった子
それが私
そして姫はまた花畑のとりこになった
私を置いていったまま...


慶(よろこ)びを二つ持っている者がいた
私にはその慶びを
分け与えてはくれなかった
慶びを持ったその者は
ずっと笑顔でいた
私はその笑顔をうらやましそうに見つめるだけだった
慶びを持った者は
ずっと笑顔のまま...


麗らかな空が私を見下してた
空はどこを見ているのかわからなかった
私もあまりにも空が大きすぎて
空がどこにあるのかわからなかった
いったい本当のあなたはどこなの?
そして私は麗らかな空を見すぎて
奈落の底に堕ちていくの
誰も気付かないまま...


真実を映し出す名前を授かった
美しいソレは
自分の幸せに気付いてなかった
自分が真実を映し出しているなんてことさえ
わかっていなかった
私は教えてあげようとしたけれど
ソレがそれを望んでいないことに気付いて
ソレはずっと幸せを知らないまま
ソレはずっと幸せを授かったまま...


星には天使がいた
エンジェルがいた
そのエンジェルは光を回りに輝かせて
夜を歩いてた
暗闇を歩いてた
臆病な私は夜も暗闇も歩けないのに
エンジェルはいつも歩いてた
そして私を笑ってた
ついておいでよ、って促すけれど
私はやっぱり臆病でついていくことはできなかった
私は臆病なまま
私はついていけないまま...


もう通り過ぎてしまったハルが
どこにいってしまったかわからなかったハルが
ひょこっと顔を出した
別にたんぽぽを咲かすわけでも
春風を吹かすわけでもなかったけど
ハルは私を見て
にこっと笑顔を見せてくれた
私もにこっと笑顔を返した
私は笑うことを思い出せた
いつのまにかハルは通り過ぎてしまった
ハルは春のまま...


時計をいつも持ち歩いて
旅をする者がいた
とても時間に厳しくて
いつも忙しそうにして
休む暇があるのかと疑うくらいに
時間に追われてた
都にいった旅する者は
サクラを見てほっとため息をついた
旅する者は何かを探していたのだろう
休める場所を探していたのだろう
旅する者は時計を投げ捨てた
そしてサクラの木の下に座り込んだ
旅する者は時間の流れを忘れたまま...


虹を手にした子供は
その虹をどうすることもなく
ただ手に入れたことに喜んでいた
どうするかも考えないまま
その子供は虹を見失ってしまったけど
子供はきっと虹を手に入れたことを
忘れないのだろう
そしてまた虹が目の前に現れる時
その子供は大人になるだろう
それでも心は子供のまま...


夜の月は紅に光り
闇と調和していた
自分を強調することもなく
闇に紛れ込むこともなく
自分の存在を最低限に主張し
最高に主張していた
闇の月はいつも紅に光っていたわけではないけれど
私はよく紅の光を目にした
紅の光は私に何もつたえれないまま
私は紅の月に何かを伝えてもらえないまま...


藍綬(らんじゆ)褒章を持った人が
てくてくと道を歩いていた
時代を切り開くように
てくてくと歩いていた
政府に認めてもらったその人は
さぞ満足だろうと顔を覗き込んだけど
何かが足りなさそうだった
利益なんてどうでもいいんだと
本音は言っているようだった
だったら私が認めてあげるよ
利益なんて手にいれないでいいから
自分のために生きてみて、と私は慰めるけれど
気高いその人は
てくてくと道を歩いてるまま...


怜悧な者が空を見上げていた
空はどうして青いのかと考えていた
その答えはとっくに出ているのに
怜悧な者は違う答えを探していた
利口な彼は怜悧な彼は
いったいどんな答えを望んでいるのだろう
理屈の中に閉じ込められた答えなんて
いらないのだろうか
怜悧な者はいつまでも空を見上げているまま...


森はいつもそこにあった
私はその森に近づきたくなかった
森の中で迷ってしまえば
二度と出て行けないと思ったから
森は誰にも相手にしてもらえずに
そこにたたずんでいるまま...


数式は私の頭の中をぐるぐる回る
答えを出したくはないのに
答えを出すために数式は私を混乱させる
数式なんて私には必要ないのに
どうして私は
そんなもの覚えてしまったんだろう
頭の中に数式は回ったまま...













あなたはどこにいた?















PS.身近な人の名前を使わせてもらって
  いろんなことを書いたけど
  本人とは関係ないことも書いてます
  気分を害したならごめんなさい
  これはもしかして私のこと?って思ったら
  よかったら私にお知らせください
2002年07月04日(木)

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