蜜白玉のひとりごと
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金曜日の夜は、渋谷Bunkamuraのオーチャードホールに、畠山美由紀の歌を聴きに。彼女は偽りなく歌がうまいので、ライブも心をゆだねて安心して聴いていられる。声はもちろんのこと、彼女の書く詩の世界もまた、とても気に入っている。軽やかでさわやかなものから、濃く深いものまで幅広い。
例えば、最新アルバム『リフレクション』の中では、こんな詩がある。彼女自身も、ディープな世界、と照れ笑いするような。
「ただ、在るだけ」
名もなき草花たちが 風に揺られて 空に向かって 色彩り彩りのサインを送る
きれいだな ここは 東京で最後の 聖なる空き地 みどりやわらかく誰をも包む だけどもいつまで逃げおおせるだろうか? すぐにビルや、 すぐにマンションができてしまう
あぁ、こうしていると― 私も確かにこの風の一部 名もなき草花が 教えてくれる
ほら見てごらんよ、まるで光そのものが いくつも いくつも 丸い木の枝にキスして飛ぶ
巨きな白い夏の兆しの雲よ どうか あなたが向かう所へと この空間を 連れて行ってあげて
あぁ、こうしていると 私もたしかにこの世の一部 優しい草花と ただ、在るだけ
(作詞・作曲 畠山美由紀)
以前住んでいた世田谷のアパートは、目の前が大家さんの畑、その向こうが公園、さらにその先は駐車場、というふうにずっと視界が開けていた。あるとき大家さんが亡くなって、それからは畑も手入れされず、ああ、もしかしたらこの眺めもいずれなくなってしまうのかな、と思って作ったということだった。
歌声のうしろには、流れるようなピアノと迫りくるチェロだけが聞こえる。目を閉じれば、風に吹かれて揺れる草花、地面に影を落とす大きな雲がある。
この曲に限らず彼女がうたうと、海の歌なら本当に波が打ち寄せるようで、鳥の歌なら大空を自由に飛ぶ鳥のようで、車窓の歌ならカタンカタンカタンカタンと電車に乗っているようで、いつもその感覚を不思議に思う。こちら側の想像を思い切りかきたて、何もないところからものを作る楽しさをくっきりと思い出させる。
ライブでは、昔のアルバムからも数曲うたわれ、"Diving into your mind"を聴いたときには、やっぱりこの日も蒼い海の中を自由に泳ぐイルカの姿が見えた。この歌はイルカの歌ではないけれど、個人的な思い出から、どうしても頭に浮かぶのはイルカの絵になってしまう。CDではそうはならないけれど、ライブで聴くとあふれそうになる涙をこらえるのに苦労する(たぶん、隣の相方は気づかなかったはずだ)。
体の隅々まで歌でいっぱいになった夜だった。
----------------キ---リ---ト---リ---セ---ン-------------------
こちら←で少しだけ試聴できます。3rdアルバム『リフレクション』です。10.「ただ、在るだけ」のほかには、4.「若葉の頃や」や11.「春の気配」が好きです。相方は5.「水彩画」が好きだと言っておりました。
そうそう、ライブにはスペシャル・ゲストで、アン・サリーさんとフラメンコ・ギタリストの沖仁さんがいました。アン・サリーの素直でまっすぐな歌声も気に入りました。
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