蜜白玉のひとりごと
もくじかこみらい


2003年08月10日(日) じゃあね、おじいちゃん

午後3時48分、おじいちゃんが亡くなった。

明け方、病院から連絡が入り、急いで駆けつける。お医者様の話では午前中もつかどうかだという。バスどころかタクシーさえもなかなか来ない上に、こんな時に限って電車の乗り換えのタイミングも悪い。気ばかり焦る。1時間半かかってようやく病院へ到着する。

日曜日の病院はがらんとしていた。受付にはカーテンがかかっていて、ずらっと並んだソファには誰も座っていない。先に着いていた父に連れられ、エレベーターで11階の集中治療室へ向かう。ICU入口で靴を脱ぎ、消毒済みのスリッパに履き替え、白衣を着て、手を洗い消毒する。さらにドアを開けて看護士さんの後についていく。

カーテンの向こう、おじいちゃんの周りにはたくさんの機械があった。その中でベッドに横たわるおじいちゃんはひどく痩せて見えた。握ったおじいちゃんの左手はほんのりあたたかい。顔ばかり見ていては泣きそうなので、おじいちゃんの顔とモニターを交互に見つめる。人工呼吸器を取りつけられた姿はとにかく苦しそうで、ここまでする必要があるのだろうか、たくさんの病気を抱えてがんばってきたのだからもういいじゃないか、と思った。勝手かもしれないけれど、そう思った。子どもも孫もみんな間に合ったよ、おじいちゃん。あとはおじいちゃんの好きなときに逝っていいよ。心の中で声をかける。

ICUに入れるのは一度にふたりまでと決まっているので、私は外に出ることにする。今にも涙が出そうでろくな言葉もかけられず、最後に言ったのは、「じゃあね」。結局この時がおじいちゃんとのお別れだった。

これを書いている今も覚えているのは、モニターの左上、ICUの窓の外に見えた真っ青な空の色。そこだけが別世界のようにのんびりと明るい雰囲気だった。この日、台風一過の東京は快晴。気温35度。空調の効いた病院を出ると、油蝉の声がわんわんと響いていた。


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