Deckard's Movie Diary
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2008年11月01日(土)  リダクテッド/真実の価値

『リダクテッド/真実の価値』
イラクで実際に起きた事件を元にしたブライアン・デ・パルマの新作です。こう書くと、同監督のベトナム戦争で実際に起きた事件を元にした『カジュアリティーズ』が思い出されますが、完成度はこちらの方が数段上だと思います。『カジュアリティーズ』と一番違う点はタイトルからも分かるように単に事実をドラマ化するだけでなく、様々な観点から真実をあぶりだそうとしている点です。兵士のビデオカメラ、ニュース映像、軍による取調べ映像、ユーチューブ等、限りなくドキュメンタリーに近づけようと姿勢は高く評価出来ますし、ヴェネチア映画祭で監督賞を受賞するのも頷けます。妊婦までも射殺しなければならない極度の緊張の中で過ごす日々(ヘンデルの“サラバンド”がしつこいくらいにBGMとして使われています)。爆弾テロに対する怒りと恐怖の充満。一触即発の状況が生んだ悲劇。刑務所か戦地しか選べないような連中がアメリカの富裕層を守っているという現実。この作品は見応え十分の擬似ドキュメンタリーに仕上がっています。多少、ダルい部分もありますが・・・。デ・パルマという監督は決してテクニックのある監督ではありませんが、今作での力技は見るべきものがあります!ラストに流れるのはプッチーニの『トスカ』より“星は光りぬく”。『トスカ』は登場人物のほとんどが死んでしまうオペラだったと思うのですが、戦争なんて生き残ったとしても“絶望のうちに私は死んでいく”のと同じなのでしょう。ただ、これだけの様々な映像を駆使しても、そこにはデ・パルマの思惑が入っているわけですから、この映画自体が再編集されたものでしかありません。つまり、私たちが普段目にしているニュースに代表される映像も編集されたもの(アングル等も含めて)でしかありません。結局は何が真実で、何が真実でないのか?それを見分ける力を持たないといけないということなんでしょう。まぁ、日々を生きている私たちには編集された現実なんてモノはあり得ないわけですから、いずれ消去する?される?その日まで、一生懸命生きるしかないってこってすね。

ラスト近く、見張っていただけの兵士が帰国して恋人や友人に懺悔のような告白をするシーンがあるのですが、とても複雑な印象が残りました。そのシーンで辛い告白をした彼に対してその場に居た周りの客から拍手が起きるんですが、なんか胡散臭かったです。ただ、そのシーンが心に引っかかったのも確かなんですね。自分の中ではこのシーンが消化しきれていません。彼がその行為に加担したのは確かなことですから、彼にも罪があるわけです。もちろん、無理からぬ状況だとも理解出来ます。自分だって、彼と同じ行動をしたと思います。拍手は彼が懺悔したことに対してなんでしょうけど、拍手は必要なんですかね?多分、オイラがその場に居たら拍手はしないと思います。店を出る時に彼の肩を叩くくらいです。拍手は逆に軽過ぎるような気がしてしまいます。戦争なんてのは、そんなとこで拍手するようなことじゃないだろ!って感じです。もっと突っ込んで解釈すると、デ・パルマはそこまで計算しているような気もします。どうなんでしょうか?

それにしても、何故に、アメリカ人は帰還兵から戦争のコトを聞きたがるんでしょうね?やたらと映画の中にそういうシーンが出てきますが、そこが良く分からない・・・。そんな話を聞いたって楽しいワケないじゃん!


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