Deckard's Movie Diary
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2008年08月26日(火)  実録・連合赤軍 あさま山荘への道程

『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
時代を経験した身として納得出来ない作品でした。巷の評判があまりに良いので見逃したコトを後悔していたのですが、下高井戸シネマで1週間だけ再上映されたので観てきました。下高井戸の駅で降りたのは人生で初めてかもしれません(苦笑)。因みにオイラは加藤三兄弟の末弟・元久より1歳か、2歳年上だと思います。あさま山荘事件が起きた72年2月は高校二年の三学期でした。72年2月と言えば札幌オリンピックが開催されていた時期でジャネット・リンがアイドルになり、日の丸飛行隊と呼ばれたジャンプ陣が表彰台を独占し、大きな話題になっていました。他にもこの年は、横井庄一さんがグアムから帰国し、フォークの全盛時代で、頭脳警察のアルバムが発禁になり、荒井由実(松任谷由実)がデビューし、山本リンダがどうにもとまらなかった年です。映画は『ゴッドファーザー』『叫びとささやき』『惑星ソラリス』『ポセイドン・アドベンチャー』『軍旗はためく下に』『旅の重さ』『故郷』、TVドラマは『木枯らし紋次郎』『刑事コロンボ』。オイラは71年から始まったロックミュージシャンのコンサートにうなされ続けており、7月に来日予定だったEL&P、と8月のディープパープルのコトで頭が一杯の頃でした。

さて、本作です。何が納得出来ないか!って、彼らが追い詰められていった過程が殆んど描かれていないのが全く持って不満です!無駄に長いリンチ・シーン、坂井真紀のボコボコ顔を延々と写す暇があるなら、彼等の気持ちが何故に内側(当時の言葉では“内ゲバ”)に向いてしまったのかを克明描くべきじゃないでしょうか?60年安保から70年安保、ベトナム戦争に成田闘争、若い一般人や他学生の心の中には多少なりとも学生運動に対して、ある種の共感があったと思います。ベトナム戦争だって、成田だって、誰が考えてもおかしなコトになっていましたからね。例えば、当時“新宿西口広場”と呼ばれていた場所が、69年反戦フォーク集会が行われたことで、集会が行えないように“誰も立ち止まってはならない場所”という屁理屈をつけて『西口広場』から、一夜にして『西口通路』と改められたりしたりして、なんじゃ、そりゃ!とツッコミを入れたくなるような出来事ばかりでした。しかし、69年の安田講堂陥落後、一部の学生がさらに過激化していく中で多くの学生がその方向性に着いていけず、全共闘は量としての力を失っていくワケです。そんな状況の中で連合赤軍は結成され、さらなる武力闘争へ突き進む為に“M作戦”を計画し実行に移します。“M作戦”とは銃や運動資金を手に入れる為に“革命”と言う大義名分の下、郵便局や商店を襲撃。その行為は単なる強盗傷害でしかなく、彼らは一般市民からは完全に恐れられる暴徒でしかなくなってしまいます。その辺りの描写があまりにサクサクと進んでしまうので拍子抜けでした。

それでもこの映画は力作ですし、多くの人に観て欲しい映画なのは間違いないです。ジム・オルークが担当した音楽も当時の空気感を的確に表現していましたし、それぞれの役者(特に森恒夫を演じた地曵豪、永田洋子を演じた並木愛枝)も素晴らしかったです。さすがに、ピンク映画出身の若松監督だけに演出は手堅く申し分ありませんでした。完成度には疑問が残りましたが、ラスト近辺、あさま山荘に立て籠もり、主犯格の坂口らが空虚な言葉を羅列している時に加藤三兄弟の末弟が発した言葉を耳にした時には胸に突き刺さるモノがありました。「俺たちには勇気が無かったんだ・・・」・・・多くの日本人が疑問を感じながらも何もしなかった中で、彼等は“日本を良くしたい!”という志を胸に運動に参加したワケで、その勇気は称えられるものです。しかし、進む勇気があれば、止まるにも引き返すにも勇気が必要です。“勇気”を持って立ち上がった彼等が“勇気”が無くて引き起こしてしまった悲劇。いずれにせよ大勢に反旗をひるがえすには、並々ならぬ勇気が無ければ出来ません。それはこの事件に限ったことではないし、生きていくうえでとても大事なことのような気がします。

この“あさま山荘事件”が民衆デモの成れの果て!という結果を国民に強烈に焼き付け、その後の日本において“民衆デモ”がイマイチ盛り上がらなくなってしまった要因の一つになっているのは間違いないでしょう。韓国での民衆デモが政府を動かすほどの力を持っているのとは大違いです。今の日本でそこまで一般大衆を巻き込むデモは起きません。それを熟成された民度と考えるのは早計過ぎるような気がしますが、どうなんでしょうか?2人も続けて僅か1年で首相の座を放り出し、多くの大臣が信じられないような発言ばかりを繰り返し、外交ではほとんど蚊帳の外扱い、日本はこのままでいいのでしょうか?と、日々愚痴を垂れ流しながらもオイラにはひとかけらの勇気もありません・・・。すみません。


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