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2003年09月05日(金) 真夜中の虹

本日9月5日は、クリーンコールデイです。
一昨年も昨年も同じ「因み」でしたが、
ことしも、炭坑町が(ちょっと)出てくる1本を。
私の中で、フランス製ハートウォーミング社会派映画
『今日から始まる』に競り勝った、
(この映画は、別な日に御紹介するのがよりふさわしそうなので)

フィンランド製超脱力系クライムアクションコメディーです。

真夜中の虹 Ariel

1988年フィンランド ビデオ&DVD あり(ユーロスペース/アップリンク)
製作・監督・脚本 アキ・カウリスマキ(『浮き雲』など)


製作から27年のブランクを経て日本公開された
ケン・ローチの『ケス』(1969)を見たとき、
このケン・ローチという人は、
何十年たっても同じ映画をつくっていそう……と
「褒め言葉」としてそういう表現をした人がいました。
アキ・カウリスマキの一連の映画についても、
全く同じ言葉を拝借できそうな気がします。
本編は、氏の映画としてはかなり初期の作品ですが、
このころから脱力系、無駄口たたかず、
寒い画面なのに妙にゴージャス……という雰囲気は
変わらずのようです。

フィンランドというと、FinのLandというほどで、
失礼ながら、まさに最果ての地のイメージですが、
その中でもまた北のラップランドで炭鉱夫をしていた
カスリネン(トゥロ・パヤラ)は、
閉山に伴って職を失ってしまいます。
一緒に働いていた父親は、
別な方法で苦境を乗り切りますが、
スカリネンは、ほかの多くの人間同様、
南に新天地を求め、父の車で旅立ちました。

途中、全財産を暴漢に襲われて盗られ、
たどりついた町で日雇いの仕事を得、
また、家のローンのためにせっせと働いている
シングルマザーのイルメリ(スサンナ・ハーヴィスト)と
知り合います。
彼女と過ごしている数日のうちに、
職にあぶれ、簡易宿も追い出され、
唯一の財産である車を売る手続をしたその日に、
自分を襲った暴漢を見つけて追いつめますが、
ナイフを振りかざしてきたので、そのナイフを奪い返し、
逆に男をそれで脅してしまったところが防犯カメラに映り、
いきなり2年弱の実刑を食らって刑務所に入ることになります。

息子リキを連れて面会に来たイルメリに、
カスリネンはプロポーズをします。
そんなことがあり、看守にいやらしい冗談を言われ、
珍しく腹を立てたカスリネンは、
看守を殴ったことで反省房に入れられてしまうのですが、
その間にイルメリがカスリネンに持ってきた
差し入れのおかげで、事態は大きく変わるのでした。

ネタバレになるかどうかわかりませんが、↑
要するに、イルメリが脱獄の手引きをするわけです。
が、それに気づいたのは、カスリネンではなくて、
彼と同室のミッコネン(マッティ・ペロンパー)でした。
彼が、カスリネンが反省房に入っている間に、
厚かましくも差し入れのケーキを食べてくれたおかげで、
それに気づくことができた……という言い方もできます。
ミッコネンの、
長いお務めで培われた勘の賜物とも言えましょう。

言葉だけであらわすと、
「万事休す」という状況にも何度も陥っているのですが、
実際に映画を見てみると、
ちっともハラハラもドキドキもしません。
短い時間の中で、妙にたくさんのエピソードが
並べられ、画面は動くのですが、
余りにも淡々としているため、
何が起きても「あ、そう」と受け流してしまうのです。
そんな映画が果たしておもしろいのか?
おもしろいんですよ、これが。
というより、私は実はハラハラ、ドキドキが苦手な人間で、
それでいて、よくできたクライムものは嫌いな方ではないので、
「こんなの待ってたんだ!」とさえ思いました。
観点は違えど、映画データベースサイトを覗くと、
この映画は(意外なほど)多くの人々に
愛されていることがわかり、嬉しくなりました。

原題の「Ariel」というのは、カスリネンたちが脱獄後、
国を出るために乗ろうとした船の名前です。
映画には登場しない、
監督自身が想定した「本当のオチ」も実はあるそうですが、
それはそれとして、いろいろと解釈のできる幕切れまで、
たったの1時間14分ですが、お楽しみくださいませ。


ユリノキマリ |MAILHomePage