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2003年09月04日(木) クレイマー、クレイマー

9月4日は、語呂合わせで
ク(9)ラシ(4)ックの日だそうです。

……昨年の今日も、全く同じ導入部で始まり、
何本かの映画を少しずつ御紹介しましたが、
本日は、それらの中で唯一単独では未紹介だった
次の作品をどうぞ。

クレイマー、クレイマー
Kramer vs. Kramer


1979年アメリカ ビデオ&DVD あり(SPE)
製作 スタンリー・ジャッフェ(『サハラに舞う羽根』など)
監督・脚本 ロバート・ベントン(『ノーバディーズ・フール 』など)

この映画といえばこの曲というほど「抱き合わせ」で思い出す、
ヴィヴァルディの『マンドリン協奏曲』 
ストリートミュージシャンが演奏しているシーンもありました。
川本三郎さんのシネエッセイタイトルが、
『ダスティン・ホフマンは「タンタン」を読んでいた』だったり、
(D.ホフマンが息子役のジャスティン・ヘイリーに
エルジェのコミック「タンタン」を読み聞かせるシーンから)
フレンチトーストというものを作ろう!という衝動を催したり、
何かと記号がちりばめられた映画でもありました。(昨年の紹介文)


テッド・クレイマー(ダスティン・ホフマン)は、
広告代理店勤めのサラリーマンです。
昇進が決まり、喜んで家路に着くと、
妻ジョアンナ(メリル・ストリープ)に、
まるで青天の霹靂のように「離婚」を言い渡されるのでした。
結婚8年、すべて順調だと思っていたのに、
妻は、満たされないものを抱えていたのでした。

テッドは、残された7歳の息子
ビリー(ジャスティン・ヘイリー)の世話と
仕事の両立を余儀なくされますが、
遅くまで会社にいられないので、仕事を家に持ち帰れば、
やんちゃなビリーは、案の定というべきか、
仕事の邪魔をしてくれちゃったりします。
「どうしてお前は、してほしくないなと
思ったことに限ってやるんだ!」

という、テッドのいらいらした怒鳴り声も、
お子さんの面倒を見ながら仕事をした経験のある人ならば、
他人事でなく聞けるのでは?


あらゆる歯車が狂い、
会社をやめざるを得ない状況にまで追い込まれたテッドでしたが、
ジョアンナの友人マーガレット(ジェーン・アレクサダー)という
よき相談相手の存在もあり、
皮肉なことに、子育ての方は要領を得てきました。

そんなある日、ジョアンナがテッドを訪ねてきます。
今はよい仕事を得て収入もあるので、
自分がビリーを引き取って育てたいと言い出しました。
ジョアンナの勝手な言い分に腹を立てたテッドは、
全面的に裁判で争うことにしました。
テッド・クレイマー対ジョアンナ・クレイマー、
Kramer vs. Kramerというわけです。

テッドは裁判に間に合うよう、何とか新しい仕事を探すものの、
収入は大幅にダウンしました。
ジョアンナが戻ってくるまでの子育ての「実績」を主張しても、
ジョアンナ側の弁護士に、
たまたま公園で遊んでいたビリーが顔につくった傷について
父親としての保護責任を問われてしまいます。
テッド側の弁護士は、
ジョアンナがテッドとの「結婚」という人間関係を破綻させたとして、
あなたは健全な人間関係を築けるのか?と問い詰め、
醜い足の引っ張り合いになります。
ママのことは大好きだけれど、
パパと2人きりの生活で強い絆を結んだビリー。
誰にとっても不幸な裁判でしたが、その行方は……?

今見ると、正直言って、一歩手前の映画という感じです。
幼児の子育て家庭で、
母が家を出、父が一人で狼狽するというのは、
最近のレディースコミック系のマンガでも取り上げられる素材ですが、
それらは(女性目線で描かれていることもあり)
「ああ、俺はこんな大変なことを妻に押しつけていたのか」と
男性が反省する……みたいな、
新たな紋切り型が出来上がってさえいます。


ジョアンナが幾ら「坊や、愛してるわ」と繰り返しても、
「あなた(テッド)は話し合おうとしても、聞く耳を持たないから」
と言いたげでも、
結局は子供を見捨て、自己実現とやらを成し遂げた途端、
ちゃっかり恋人までつくってのこのこ戻ってきた女、

くらいにしか思わせなかったのは失敗でした。
前時代的な「女の役割」に縛られる理不尽に気づき、
だんだんと女権運動が盛り上がってきた、
いわば夜明け前だったんだろうなと解釈して、
やっと何とか…という感じです。
一から十まで説明しろとは言いませんが、
もう少し、ジョアンナの苛立ちを説得力ある形で描いてくれたら、
共感も抱きやすかったのですが。
所詮は男がつくった映画だよねと鼻白んで見られてしまう、
そんな不幸を負っているような気がします。

ニューヨークの四季の移り変わり、
(つまり、ジョアンナは結構長いこと家を空けてわけですね)
ビリー坊やのいたいけな愛らしさ、
フレンチトーストの名シーンなど、
見るべきところもいっぱいあるんですけどね。
あんまり「おすすめ」になっていないのですが、
この映画がある方面では高く評価され、ヒットし、
あまつさえ、アカデミー賞もとってしまったという意義について
考えずにはいられません。

そもそも、離婚裁判がそのまま映画になるって、
今なら考えられませんな。
ちょっとした1エピソードになるのが関の山でしょう。


ユリノキマリ |MAILHomePage