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2002年11月11日(月) 背信の日々

1911年11月11日、フランスの活動写真『ジゴマ』公開。
……が、映画に登場する手口を真似た窃盗団が出現し、
翌年には上映禁止になったそうです。

これは極端な例としても、
映画が社会的に何らかの影響を与えることは
あまねく上映・公開する以上、
ある程度仕方のない面はあります。

そこで本日は、そういう点でうそ寒さを覚えた次の作品を。

背信の日々  Betrayed
1988年アメリカ コスタ・ガブラス監督

昨日配信のメールマガジン『映画よろず屋週報』Vol.31で、
映画音楽の作曲家について取り上げましたが、
この映画の音楽を担当したビル・コンティもかなり多作な人です。
参考までに…。


FBI捜査官の
キャシィ・ウィーバー(デブラ・ウィンガー)は、
ある殺人事件の究明のため、
関わっていると見られる人物ゲイリー・シモンズ
トム・ベレンジャー)に接近します。
彼はネブラスカの農夫で、妻亡き後、
2人の子供と母親とともに暮らす、心優しい好人物で、
しかもハンサムで魅力的な男性です。

ビール好きで気さくな季節労働者“ケイティ”として
彼の農場に潜入したキャシィは、
子供たちや母親グラディス(ベッツィ・ブレア)にも
気に入られ、
全く和気あいあい、家族的に過ごすうちに、
思わず所期の目的を忘れそうなほど一家になじみかけ、
また、ゲイリーとは愛し合うようになりますが、
彼の恐ろしい本性に気づくのに、
そう時間はかかりませんでした……

うーん、“本性”についてつまびらかにしていいのかどうか、
非常に迷います。
ネタバレポイントというわけではないのですが、
知らない状態でごらんになった方が、
衝撃度が強いのはたしかです。
要するにゲイリーは、
ある思想にのっとって殺人を犯しているので、
自分は悪いことをしているという意識がありません。
でもって、その辺の思想について説明されると、
一理あるような気がしてくるのが、
何とも恐ろしいと思いました。

彼に育てられる子供たちも、
それを正しいこととして体得するのですが、
終盤、キャシィを特に慕っていた下の娘が、
キャシィに諭されるシーンがあります。
一人の少女が開眼させられるというよりは、
ごく特殊なコミュニティに身を置く彼女が、
まともな人間らしい考え方を身につけたとき、
どんなふうに傷つけられながら成長していくのか、
そちらの方が気になりました。

ところで、ゲイリーもまたキャシィの正体を
知るようになりますが、
かくして、敵同士であることを悟った2人の対決という
クライマックスへ向います。
メロドラマであり、サスペンスでもあり、
ついでにそのどちらも中途半端な感じは否めないものの、
大いに示唆を与える作品ではあります。

ところで、私はこれを14年前のクリスマスに見たのですが、
(正確にはクリスマスに見たから日を特定できるのですが)
劇場を出ようとしたとき、
中年女性2人組の会話が漏れ聞こえました。
「どっちがよくて、どっちが悪かったの?」
「男が悪くて、女がいい方じゃないの?」


ちょうど、隣の劇場で『男はつらいよ』を上映中でした。
ひょっとして彼女らは、劇場入り間違えたのかな?などと、
当時まだ若くて傲慢な映画ファンだった私は思いました。


ユリノキマリ |MAILHomePage