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2002年10月29日(火) 推手

先日、アン・リーの誕生日に、「父親三部作」の1つとして、
『ウェディング・バンケット』を御紹介しましたが、
残る1作、最も早くつくられたこちらをどうぞ。
(この作品は、何度か『映画よろず屋週報』で取り上げていたため、
すっかり御紹介した気でおりましたが、
こうして1本で立てるのは初めてでした)
因みにさらにもう1本『恋人たちの食卓』はこちら。

推手 Pusing Hands
1991年台湾/アメリカ アン・リー監督

この映画自体が、アン・リー監督の長編デビューだったようです。
また、「父親」役のラン・シャンは、
この作品で最もキャラが立っていた…というか、
ずばり「主役」でした。

ラン・シャン演じる朱老人は、太極拳の師匠ですが、
華僑としてニューヨークで成功した息子アレックスのもとに
身を寄せます。
が、息子の妻はアメリカ人で、言葉もまともに通じない、
食事の好みも全く合わず……で、
コミュニケーション以前の問題ですれちがってばかりです。
かわいい孫にいろいろ教えようとしても、
アメリカ人として子供を育てたいと考えている
嫁も息子もいい顔をしません。

朱老人の生きがいといえば、
成人学級で太極拳を教えることでした。
(タイトルの「推手」とは、2人組で行う組み手の1つだそうです)
ある日、いつも教室として使っているホールを、
料理教室と共同で使わざるを得なくなったのがきっかけで、
その講師を務める、台湾出身の上品な老女と知り合い、
ほのかな恋心を通わせることになります。
しょぼくれていた親父さんが心配だったアレックスも、
彼女との交際には好意的で、
むしろ応援すらするのですが……

親子でありながら、カルチャーとゼネレーション、
いわば二重のギャップを感じつつ、
お互いを思い合う父と息子の物語でした。
重大な問題を含みつつ、映画自体は淡々としたもので、
あっけない幕切れにさえ思えるラストまで、
小事件がぽつらぽつらと起こる程度です。
けれども、何とも言えないユーモアがにじむようで、
とてもデビュー作とは思えない、
(当時まだ30代ですぜ、ダンナ!)
それこそ成熟とか円熟といった言葉を使いたいような
見事な仕上がりでした。


ユリノキマリ |MAILHomePage