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ベテラン女優・左幸子さんが、享年71歳で亡くなりました。 正直申し上げて、お名前を辛うじて存じ上げているという程度で、 見た映画も『にっぽん昆虫記』1本なのですが、 この作品が、 「後味の悪い映画3選」に個人的には選びたいほどなのですが、 奇妙に印象に残る作品でもあったので、 追悼の意もこめ、ぜひこの場をおかりして御紹介したいと思います。
にっぽん昆虫記The Insect Woman 1963年日本 今村昌平監督
3年前、福島フォーラムの日本映画特集で見たのですが、 ふだんは映画館でそう姿を見かけることがない 「おじいちゃん」世代の皆さんが、 通し券(5作品くらい)を買って、 続けてごらんになっているのもちらほらお見かけし、 一映画ファンとして、非常に嬉しくなったのを覚えています。 で、映画が始まると、こっくりこっくり舟を漕いでしまう方も いらっしゃるわけですが、 その映画を上映している空気を肌で感じ取るということには、 ものすごい意義があると思います。
映画の方は、左さんのまさに独壇場でした。 この映画で、日本の女優としては初めて、 ベルリン映画祭で主演女優賞を受賞したそうです。
この映画のタイトルにある「昆虫」とは、 映画の中でしぶとく生き抜く女性“トキ”を指しているようですが、 砂の上をはいつくばる昆虫がばあんと大写しになるオープニングで、 まず度肝を抜かれます。
大正時代、山形の寒村。 文化文明とはほど遠い生活を送る家で、女の子が生まれました。 彼女は後に、乱暴に言ってしまうと「清純」とは全く無縁の、 女であるがゆえの受難に翻弄されながら、 ちゃっかりとオンナそのものを売りにして、 見苦しいほどにたくましくしぶとく生き抜く姿が、 全編にねっとりと張りついた、 エロチシズムとでも表現したいような空気の中、 妙にリアルに描かれています。
ところどころで、そのときどきのトキの心情をあらわした 戯れ歌という感じの短歌が、“トキ”自身の声で詠まれるのですが、 これがまた、正直こちらが恥ずかしくなるような出来のものばかりで、 人間の一番恥ずかしい部分(の1つ)を 見せつけられるような気分になるのですが、 しまいには、短歌の飛び出すタイミングをはかったりして、 楽しみにさえなってきます。
映画に夢のあるものを求める方には、 ちょっと口に合わない作品かもしれませんが、 たまにはドロドロ、ねとねとのリアリズムに身を浸したいという方に ぴったりです。 「あいのこ」などという、今、公共の場でアナウンサーなどが使ったら、 始末書書かされそうな言葉が登場するのも、 時代を感じますね。
私の住む田舎では望み薄ですが、首都圏の深夜映画などで もしも緊急追悼放送でもありましたら、チェックしてみてください。
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