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1985年9月11日、 女優・夏目雅子が27歳の若さで他界しました。 私たち60年代生まれにとっては、 『西遊記』の三蔵法師役が何といっても印象的でしたが、 もしもまだ御存命で、女優として活躍なさっていたら、 日本映画はもっと違った方向に行っていたのでは、とさえ思います。
そんな彼女が2役をこなした映画がありました。
時代屋の女房 1983年日本 森崎東監督
原作・直木賞も受賞した村松友視の同名短編を軸に、 他の小説のエピソードをコラージュしたような作品です。
「時代屋」という名の骨董屋を営むやもめ男「安さん」のもとに、 日傘をくるくる回しながらやってくる風変わりな女性がいました。 「真弓」というその女性は、時代屋の店内を興味深げにあれこれ眺め、 気がついたら、安さんとベッドを共にし、 そのまま居ついてしまいました。
安さんは詮索好きな方ではないし、 真弓も自分のことを余り話しません。 昔風の電話を改造した録音機に、 「ちょっと出てきます。 アブサン(猫の名前)のえさ、忘れないでね」 とだけ吹き込んでたまにふらりとプチ家出をしますが、 必ず1週間以内に、また傘を回しながら帰ってきます。 (メアリー・ポピンズのパロディー? ……のわけないか)
というような安さんと真弓の日常生活を、 情緒たっぷりに描いた大人の映画でした。 何しろ私がこの映画を初めて見たのは中3のときだったので、 ナツメマサコってきれいだなあという印象しかなかったのですが、 後になって振り返ってみると、 なかなかどうして、しっとりとして印象深い、 よくできた作品だったと思います。
ところで、「安さん」を演じていたのが渡瀬恒彦、 「真弓」が夏目雅子だったのですが、 もう一役というのは、 こちらも「安さん」と行きずりの関係になる「美郷」という女性でした。 カーリーヘアで、気はいいけれど洗練されていない感じで、 夏目雅子だとは気づかないほど野暮ったい女性役ですが、 見事に演じ分けていました。
他の小説の挿話を無理やりこじつけで持ってきた感のある箇所も ないではないのですが、許される範囲ではあると思います。 しっかり脇役になっている変わった骨董品の数々にも注目です。 (地方に買いつけにいくシーンの夏目さんがかわいい) 原作もおすすめします。
ところで、私は見ていないのですが、 『時代屋の女房2』というのもあったようですね。 正直、この映画を見た後だと、 「何の冗談だろう」と思うような企画です。 『時代屋の女房』は、あのぼんやりした余韻がいい感じなので、 多分、私がこの『2』を見る日は来ないでしょう。 (でも、存外いい作品だったらどうしよう…と、少し葛藤もあります)
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