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アンジェラの灰 Angela's Ashes 1999年アメリカ・アイルランド アラン・パーカー監督 フランク・マコート【アンジェラの灰】新潮社クレスト/文庫あり
この原作になったのは、97年度のピュリッツァー賞を受賞した フランク・マコートの同名の回想録です。 マコートは1930年に、 アイルランドからアメリカに移住した両親の長子として ニューヨークで生まれました。 その後、4歳のときに両親の故郷であるアイルランドに行き、 学校を卒業後、電報配達の仕事などで資金を貯めて、 19歳で単身ニューヨークに渡った……とのことです。 その4歳から19歳までの、 アイルランドの貧しいカトリック家庭に生まれ育ったが故の苦悩、 生死の境をさまようような病気の経験、文学的素養の萌芽、 性の目覚めなどなどのエピソードが、 時には笑いを誘うほどにユーモラスに描かれています。 かなりはしょられた箇所もありましたが、 概ね原作に忠実に映画化されていました。
悲惨な状況を全く笑い飛ばしているような、 それでいて世をすねているわけでもない表現から、 マコートの人間としての芯の強さや知性が感じ取れる、 すばらしい作品でした。 私は2度目のお産で入院中、この500ページ以上ある本を、 気がついたら2回も通読してしまいました。 本当は産後は目を使うものではないと注意をされ、 持っていったのがこの本と、 娘が貸してくれた「昆虫の飼育法」という本だけだった せいもありますが。 (御存じですか?本当はカブトムシには、キュウリやスイカの皮は、 エサとしては不適切なんだそうですね)
マコートを含め関係者もまだ御存命という状況ですから、 映画化の際、表現にはかなり神経を使ったと思われますが、 かなり頑張った作品だと思います。 6回出産(うち双子1組)して3人の子供を小さいうちに失う 母親アンジェラをエミリー・ワトスン、 甲斐性なしで飲んだくれの父親マラキをロバート・カーライルが演じ、 子供たちが光っている映画ということで分が悪いにもかかわらず、 全く負けていない存在感を発していました。 イギリスを代表する演技派2人を 起用したかいがあったというものでしょう。
ビデオショップに行くと、フランク少年がぺろっと舌を出している写真が ジャケットにあしらわれたビデオ&DVDがあるかと思います。 これは、欧米の映画のカトリック教会のシーンでもおなじみの、 聖餅(せいべい)を飲み込む練習の風景です。 あれって結局何なのでしょうね? 原作を読んでも、映画を見てもわかりませんでした。 新聞紙を切り刻んだようなもので練習していましたが、 まさか「本番」でも紙製なんでしょうか。 おばあちゃんが、とげぬき地蔵の御札(もちろん紙)を 丸呑みしていたのを思い出しました。
ところで、映画を見ていて、 どうして私が原作にあんなにも惹かれたか、 わかった気がしました。 悲惨の上に悲惨を重ねたような状況下でも、 賢く想像力の豊かなフランク少年は、 いつも何らかのきっかけで笑っている、 そんな顔が容易に頭に浮かぶ気がしたからでした。 真の楽天家というのは、 いつもいつも最悪の状況を考えつつも希望を失わない、 そんな人のことを言うのでしょうね。 例えば、どんな仕事に就いても3週間がやっとで、 わずかな給金はもちろん、生活保護から出産祝いに至るまで、 すべて勝手に飲み代にしてしまう父は完全に人間のくずですが、 フランクは、そんな父親がしらふのときには アイルランドの英雄の話をしてくれることも知っています。 「口ばかり達者で怠け者の飲んだくれ」と揶揄しつつも、 自分なりに父親へ愛と尊敬を向けることを忘れていません。
今回はどちらかというと、映画よりも 原作の売り込みになってしまいましたが、 この辺で……。
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