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まず結論から先に言ってしまうと、私はこの映画、巷で絶賛されているほどに感動はしませんでした。まあアカデミー賞にノミネートされてたりして若干期待しすぎていたところがあるかもしれないけど(一方で確かにそれに値する良い映画であるとも思ってはいるのですが)、何となく納得いかない感じが残った。心からの感動というのとはちょっと違うな、と。
お話は、劇作家ジェームズ・バリと彼と心を通わせた少年たち(およびその母親@未亡人)との交流、またそれによって名作「ピーター・パン」が生まれるに至った過程を事実を元にして描いた人間ドラマです。事実に着想を得たオリジナル脚本であって実話ではありません。念のため。 バリは散歩中に偶然出会った未亡人シルヴィア&その息子達とすっかり仲良くなりプラトニックな信頼関係を築くんだけど、実はシルヴィアは病に冒され死期が近づいている。それでバリは少年に創作の素晴らしさ・想像することの素晴らしさを教えるとともに、彼等との交流で得たインスピレーションを作品に投影して「ピーター・パン」を完成させ、結果それがシルヴィアと息子達の心を救うという流れ。
個人的に何が気に入らないかというと、ファンタジーの力、想像力の素晴らしさを訴えてはいても、結局この話は現実逃避の域を出ていないように思えるところです。いや「ピーター・パン」は現実逃避の代名詞なんだからそういう意味では間違ってないだろうと言われればその通りなんだけど、まあ、ややこしくなるのでそれはひとまず置いておくことにして。 終盤シルヴィアの自宅で劇が上演されて、いよいよ死期迫った彼女がゆっくりと物語の世界に足を踏み入れてゆく、そこは非常に象徴的で思わずウルッときてしまう感動シーンではあるのだけども、さあ何も心配することはないよシルヴィア、永遠のネバーランドだ、ほら、お母さんはそこに行くんだ、だから大丈夫、信じることが大切なんだ、お母さんは君たちの心の中に永遠に生き続けるんだよ、…とか言われても、なんだかなあー、目眩ましとまでは言いませんが、視点を変えて自己暗示をかけてるだけで根本的な解決にはなってないと思うのね。
つまり抗えない死というものがまず絶対的に存在していて、そこから逃れられないから想像力で自分(あるいは相手)を納得させるという、それはファンタジーの効用としては確かに美談だけれどもあくまで対症療法にすぎない気がするんです。どこか、虚しい。これに比べると暗鬱たる“死”そのものをそっくりファンタジーに転換してしまった「ビッグ・フィッシュ」の方が数倍上手(うわて)だったと思います。さすがティム・バートン。
あー話がそれた。
それでバリには奥さんもいるんだけどほとんど家庭内別居状態で、結果的に奥さんは別の男に走ってしまいます。まあ、それも当然だよね。私は公平に見て被害者は奥さんの方だと思うし、なぜなら彼女はもっと互いに分かり合って幸せになろうときちんと努力していたのだから。家庭を顧みなかったのは空想の世界にばかり逃避していたバリの方。
それでも、こんなこと言うと矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、私はジェームズ・バリという人の行動原理もわかるんだ。作家というのはおそらく、多かれ少なかれ現実社会に適応できない面を持っている。それはもう、わかっていても自分の意志ではどうしようもないのね。だから例えば「めぐりあう時間たち」のヴァージニア・ウルフなんかは夫が理解ある人で幸せだったと思うなあ。ああいうのは稀だと思います。
あーまた話がそれた。(しかも相当長文になってきたな)
あの、さんざん書き殴っておいて今更アレですが、私この映画が嫌いだと言っているわけではないです。全体的には良かったと思ってます。わざとらしく感動を煽ったりしないし、衣装や風景はうっとりするくらい綺麗だし、犬がすっごい可愛かったし(結局犬かよ!)。何より主演のジョニデとケイトがとっても良かった。ジョニデの持ってるちょっと浮世離れした雰囲気はこの役に合ってたと思います。オスカーは残念だったけど、また次があるさー!
****** ネバーランド 【FINDING NEVERLAND】
2004年 イギリス・アメリカ / 日本公開 2005年 監督:マーク・フォースター 声の出演:ジョニー・デップ、ケイト・ウィンスレット ラダ・ミッチェル、ジュリー・クリスティ、フレディ・ハイモア (劇場鑑賞)
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