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二人のはじまり 9■2002年03月29日(金)
生徒とは携帯の電話番号とメールアドレスを交換していたため、よく連絡を取るようになっていた。
もっとも、連絡といっても事務的なことではなく、たいがいは生徒が今日あったことやら何やらを報告してくることが多かった。
そして僕は、なお生徒を女性としてみることはなかった。
ある日、昼間に数通来るのがきまりになっていたメールがぱったりと止まった。
その日は彼氏に会う日曜ではなかったので、僕は不思議に思っていた。
それくらい、僕にとって生徒と関わっていることが日常的であり、当然になっていた。
そして、夜に電話が来た。
通話が始まっても、生徒は何も話さなかった。
僕は生徒の名前を呼んだ。
それでも彼女は答えなかった。
どうした?
「…」
どうした?大丈夫か?
「先生」
弱い声だった。
「また、やっちゃった。」
生徒は語り始めた。
その日、街を歩いている時に男に声を掛けられ、そいつの言うがままにホテルへ行ったこと。
そこで何かの注射をされて、気持ちが悪いということ。
僕はあわて、彼女の体調を聞き出し、病院へ行けと怒鳴った。
「いいよそんなの。連れてってくれる人がいないし。」
だったら、僕が送っていく。用意しろ。
「いいよ。今夜これから彼氏に会うんだし。」
病院へ行く、行かないの言い合いになった。
明らかに彼女の声は弱かった、それでも彼女は彼氏に会うことを考えていた。
生徒が、大丈夫、と言うのでいい加減僕は病院へ連れていくことを諦めた。
具合が悪くなったらすぐ僕に連絡せよ、とだけ約束して。
彼女はまた話し始めた。
春休みで、やることがない。
彼氏は仕事で忙しい。
もともと学校でも浮いているので「友達なんていないよ」という。
「だから、誰かに付いていくの。」
そんな…。
暇つぶしにしては、君は傷つきすぎてる。
「これくらいなら、まだいい方でしょ。」
生徒はそこで語気を強めた。
「これくらいじゃ傷ついたのうちに入らないって。わたしはもっともっと傷つかなきゃいけないの。」
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