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二人のはじまり 7■2002年03月27日(水)
前日の約束通り、僕らは会った。
家から少し離れた場所で彼女を車に乗せ、このあたりでは大きい、近くの公園へ向かうことにした。
3月中頃で大分暖かだった。
「これ、可愛いでしょ?」
僕の車に乗り込んだ生徒は、手のことに触れる前に着こなしのことを持ち出した。
肩を大きく出したその服と、セブンのジーパン。
可愛いね。かっこいい感じもあって、ブリトニー、かな。
「でしょう。でもね、この間、この格好してたら、お姉ちゃんに専門学校のCMの子見たいって言われちゃって。微妙だよね。」
ははは。
コンビニで飲み物と生徒のマルボロ・メンソールを買い、公園を歩いた。
生徒が鞄を持ちにくそうにしていたので、僕が代わりに持った。
なんだか、恋人のようなことをしているな、と思った。
しばらく歩いた後にベンチに座り、生徒はライターの火をつけようとしたが、利き手でない左手では上手く点火できなかった。
火、つけるのも大変になったな。
僕はこの日初めて手の怪我のことへ話題を振った。
「ま、ね。」
昨日はよく眠れた?
「寝たねえ。以外によく寝た。」
驚いたよ、本当に。怪我の程度はどれくらいだって?
「ギプスがとれるまで1ヶ月くらい。医者に言われたよ、君はボクサーかって。」
それくらい何度もぶつけたんだ。
「あ、でも親には階段から落ちたときに手をついたらこうなったって言ってけどね。彼氏にも、一応、そう言ってあるし。で、夜中なのに“大丈夫?今から行くから待ってて”とかやたら心配するし、いろいろ聞こうとするし。ああもう、面倒くさくって。私は大丈夫だから、あなたは明日の仕事に備えてって、言っても聞かないし。」
そりゃ、彼氏は心配するだろう。でも、自分で折ったとは言わなかったんだ。
「あの人だと、理解できないと思う、自分で骨を折ったって言っても。先生はさ、なんか、何言っても良さそうじゃん。だから言うけど。だいたい、異常じゃん?自分で自分の体を傷つけてるんだよ。」 僕は思った。異常かどうか。ただ、彼女は手を折らずにはいられないくらい追いつめられていたことは事実だ。
彼氏には余計な心配を掛けたくない、か。
「そういうこと。」
彼女は新しいたばこに火をつけて、吸った。
顔を上向きにして、吐いた煙を目で追う姿は、傍目にはかったるく見える。
「先生は吸わないの?」
ああ、煙にむせちゃて。
「子どもだなあ。」
生徒は棒きれをつまみ上げ、地面に”Rip Slyme”と書き込んだ。
この前、シングル出たよね。
「私買ったよ。pez君、大好き!」
生徒は次に”Radiohead”と書いた。
聞かせてもらってます。でもね、一曲目と二曲目にはまってて、それ以降聞いてないんだ。30分くらい、リピートでparanoia androidを聞いてたりしてる。
「みんなあれがいいって言うよね。私はkarma police最高!なんだけどね。でも先生、やばいよ、レディオヘッドなんか連続で聞いてたら。」
確かにね。気分が暗くなり過ぎないうちに止めるようにするよ。
しばらく音楽談義をして公園を出、彼女を家まで送った。
じゃ。な。
「じゃあね。また明日、先生、家に来るんだよね。」
ああ、そうだよ。
「じゃあ、あれだね、これで三日連続で先生に会うことになるね。バイバイ」
ははは。バイバイ。
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