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二人のはじまり 4■2002年03月24日(日)


生徒とのはじめての電話での会話は続いた。

僕は乗っていた車を近くの公園に停めて話していた。

「先生・・・。」

どうした?

「私、指の骨折っちゃった・・・自分で。」

自分で?

「うん、壁にねぶつけたり、物で叩いたりしたんだけど、なかなか丈夫なものだね、人間の骨って。」

このときの生徒は、まるで彼女の精神が別の場所に遊離して、残った肉体だけがかろうじてぱくぱくと喋っているようだった。

「右手の小指と中指がね、くたんと曲がって動かなくなったの。」

僕は、事態の重大さを知りながらも、彼女と同じように感情を表に出さず、驚くほど冷静だった。

手当ては、今はもう大丈夫かい?

「うん。病院行ってきた。お父さんに連れてってもらった。自分でやったとは言ってないよ、階段でよろけて手をついたら折れたって言った。びっくりした?」

驚くよ・・・でも今は無事だとわかって安心してるよ・・・。

「ごめんなさい。」

大丈夫だよ。何があった?話なら付き合うよ。

「今度ピアノのコンクールがあるんだけど、今回は絶対に上手くいかないと思うの。今まで結構、賞とか貰ってたわけ。だったら次は、前回よりもいい成績残さなきゃいけないでしょう?でも、今回はダメだと分かるの。絶対に上手く弾けない。」

生徒の少し語気が強くなってきていた。

「失敗するのがわかっててやるのは馬鹿みたいじゃん、それに、これで発表会とか出るのを止めれば、周りには『あの子は途中でピアノを辞めたけどあのまま行けば凄いことになったかも』みたいな風に言われるじゃない。逆に失敗したら、『あの子はこの程度でおしまいか』とか言われるんだよ。そんなんだったらもう出ない。勝ち逃げだよ。でも、指折っちゃったから、もう出られないよ。」

僕は返答に困っていたが、とにかく自分の気持ちを伝えた。

ピアノの事は、なんとも言えないけど、それよりか、手のことが心配で心配で仕方ないよ。

「ごめんね。そんなに心配した?」

心配だよ!

「だったら、今から私に会いに来る?私のことが心配なんでしょう?」

こんな時間に?

もう日付が変わろうとしていた。

「先生。」

ん?

「好き。」


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