Experiences in UK
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2003年11月03日(月) |
第12週 2003.10.27-11.3 民営化の問題、マクドナルドの呼び方 |
今週のロンドンは、午前中に晴れていたかと思うと午後からは黒雲が空一面に垂れ込めてしょぼしょぼと細かい雨が降り続くという日が多くありました。冬時間に切り替わったこともあり、外は5時には真っ暗になっています。
(ロイヤル・メールのスト) 今週、ロイヤル・メール(英国郵便)がストを起こしました。この1〜2年、ロイヤル・メールの労使対立が激化しているというニュースは東京でもしばしば聞こえておりましたが、今回のストライキは、非公認の山猫ストであり、当地メディアでもかなり唐突感をもって伝えられています。ストにより、数日にわたって郵便の配達がストップしています。 先週お伝えしたロンドン地下鉄事故の問題も、今回の郵便ストの問題も、背景にあるのは民営化の手法をめぐる問題です。
(民営化の問題) ロンドンの地下鉄は、今年初めからいわゆる「上下分離」方式による民営化が実施されています。線路のメンテナンスだけを切り離して民間会社に委託するという、英国の旧国鉄における失敗で悪名高い「上下分離」方式です。結果として、地下鉄においてもやはり線路のメンテナンスに問題が発生しているようで、私の知る限りでも、今年に入ってから3回の脱線事故が発生しています(もっとも、私の持ち合わせている知識からは、民営化と事故の間の因果の程度についてまで確かなことはいえませんが)。 一方、郵便の方も、迷走状態が続いています。英国における郵政事業の民営化は、サッチャー政権時代にその方針が定められ、2001年の3月に、ロイヤル・メールを政府全額出資の株式会社(特殊法人)としたうえで、会社の名称もコンシグニアに改称するという措置がとられました。現在も郵便事業の段階的な自由化が進んでおり、同事業への民間参入は徐々に進んでいるようです。 しかし、発足直後からコンシグニアの経営悪化がどんどん深刻化しました。決算期ごとに大幅な人員削減のニュースが伝えられ、労使対立も激化の一途をたどってきました。会社の名称もいつの間にか元のロイヤル・メールに戻されています。
地下鉄にしろ郵便にしろ、「だから、民営化は失敗だった」という単純な話では当然なくて、問題は民営化の手法とか過渡期の激変緩和措置をどう図るかということなのだと思います。 ここから先の話は、難しくなるので頭の中で自問自答するにとどめますが、ひとつだけ改めて実感するのは、教育や医療を含めた広い意味での公共財に対して、どんな範囲でどのように市場原理を導入していくのかというのは、日本を含めた世界各国が直面している大きな課題だということです(すべての医療サービスを無料で受けることができる英国の医療制度も、曲がり角にさしかかろうとしているようです)。
(マクドナルドの呼び方) ところで。別に意識して蒐集しているわけではないのですが、また英国人と大阪人の共通点が見つかりました。これは、個人的にはこれまでで一番驚愕の事実です。 東京と大阪の代表的なカルチュラル・ギャップのひとつに、マクドナルドの呼び方があります。ご存じの通り、大阪では「マクド」と呼ぶのに対して東京では「マック」です。大阪人は、この「マック」という呼び方に著しく違和感を覚えるものです。 さて、英国人はどう呼んでいるのか。オフィスの現地スタッフ(スコットランド出身)に取材してみたところ、かれらは「マッキディーズ」と呼ぶらしいです。そして、日本で2通りの呼び方があると言ったところ、たちどころに「『マクド』is better!」との返事が返ってきました。 大阪人が「マクド」と呼んでいるのは、日本語としての音が大阪の風土ないしは大阪弁に合っているからに過ぎないのであって、断じて言語感覚が英国人に近いからではないでしょう。よって、偶然の一致には違いないのですが、たいへん驚きました。なぜならば、大阪人が「マック」に違和感を覚えるのは、ものすごく気取った感じがするからです。つまり、アメリカ風(英語風)の短縮のさせ方という印象があるわけです。しかし実際の英語風は「マクド」の方だという点が、非常に意外でかつ面白い事実です。もっとも、アメリカでどう言うのかはわかりませんが。
ちなみに、Macがつく人名はケルト民族に特有のものらしいです。ケルト民族というのは、現在のアイルランド、スコットランド、ウェールズの各地方の民族のことです。Macはケルト語で「〜の息子」という意味らしく、マッカーサーは「アーサー王の息子」という意味の名で、あのダグラス・マッカーサー司令長官も出自はスコットランド系とのことです(以上の蘊蓄は、司馬遼太郎「街道をゆく31 愛蘭土紀行2」による)。 というわけで、後に大成功を収めるハンバーガー屋さんを興したと目されるアメリカ人MacDonaldさんのルーツは、高い確度でスコットランドやアイルランドなどからの移民のばすです。往年のアメリカ人名テニス・プレーヤーのジョン・マッケンローもアイルランド系移民の子孫でしたし、英国の伝承童謡(Mother Goose rhymes or nursery rhymes)の中にも"Old MacDonald Had a Farm"というのがあります。 したがって、もしアメリカでマクドナルドのことを「マック」と呼んでいたとしても、元祖は英国の「マッキディーズ」であるといえましょう。
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