文
- 空席
2004年07月01日(木)
カフェオレを注文してテーブル上の灰皿に向き合ったら ふと向かいの空席が気になってしまった きみはどうしているだろうか 三年前のいまごろに夢中になって追いかけた楽譜を 引っ張りだして唄ってみたせいなのだろう 今日は幾度も幾度もきみのことを思い出した
きみよ 君よと 呼びかけるひとは実にたくさんいるのだけれど ほかにどう呼んでいいのかもわからないから 未練がましくもぼくはやはり きみ と呼びかける
そうしているうちにカフェオレが出たので 灰皿をテーブル向こうへ押しやった 向かい席のきみが吸い差しをついと置くすがたが浮かんだ きみもぼくも煙草を吸うから せまいテーブルの上のちょうど真中に灰皿を置いた ひとつの灰皿をはさんで浅くも深くもたくさんのことを話した なあ どうしているのだろう 目の前にはテーブル越しの赤い背もたれ
両手で掬いあげたカフェオレボウルのあたたかさに躊躇した きみはコーヒーをブラックでは飲まなかった ぼくは苦くなければ飲みたくはなかった
灰皿はぼくの側の半円にだけねじくれた吸殻を乗せている どうして席は空いているのだろう
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