文
- 鏡
2004年07月14日(水)
指からは七号の指輪が抜け落ちようとしている 朝のしらけた明るみは町に霜を下ろした
姿見の前に立って己をつくづく眺める目には 年中冬枯れのような曇天の夜明けは煩さを感じぬだけ好ましい 水のようなつめたさの風がしらしらと窓から忍び込む 夜は明けた 見よ 己の姿は鏡のなかにある 光の助けを借りてたしかに己の姿はある 見よ
手を当てた胸のしたにあばら骨が透いている あばら骨のしたには血の巡るおとのする 紙のような黄ばんだ皮膚も 押し込められて歪んだ肉も あれこれの切り傷も打撲も擦り傷も たしかに見えているではないか たしかに痛んでいるではないか
見よ まぎれもなく生きるからだがここにある ほかのだれでもない己がここに生きている 見よ 目をそらさずに見よ
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