文
- 六月の雨夜
2004年06月06日(日)
日も改まったころ家に帰ると 暗い部屋の中に誰かの気配が待っていた
たとえば家の裏手にはたくさんのどくだみが咲いているのだ もとの地面のかたちなどわからなくなるほど 葉をいっぱいに茂らせて こんもりとひしめいてふくらんでいる だれも君のことなど見てはおらんよ かわいそうに、と しべの長い白い花に触れる 四枚の花弁は十字に開いたまま何も言わないでいるが 雨のあとの空気にはたしかに 彼らの呼吸を感じないではいないのだ
家のドアを開けると 部屋の奥には湿気た暗がりがつめたくなっていた けれどもそれは死んではいないのだ 暗がりは押し黙ったまま何も言ってはこないが わたしを見つめてみじろぎをする そこにはしおれた切花と飲みかけた水と 窓を通して聞こえる雨の音があった どくだみは濡れているだろう 濡れたまま最大限に生きているのだろう わたしを待っていた切花は首をたれている かわいそうに、まもなく死ぬだろう 六月の雨夜は脅迫的なのだ 部屋の中にいるというのに生きもののざわめき声で息が詰まる 切花が長く生きられないのは雨に濡れないせいではない
ねえ 誰も居ない部屋に悲鳴の上がることもあるよ 知っていた?
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