2004年06月10日(木)

 夕ごろ、買い物のために家を出たときの外の空気は、まるで思春期の女の子のような匂いがした。具体的に匂いを覚えているわけではない。玄関から出ると同時に纏わりついてきた梅雨の熱気が、即座に頭の中でそう形容されたことを覚えている。六月が若い時期だからか。出た時刻がちょうど大学の五限時終了間際で、曇天の下を学生がぞろぞろ歩いていたせいか。だとするとやはり大学生など若いのだと思う。この町では季節も住む人も今が盛りなのだ。
 口の中に不快感があった。しばらく固形物を食べない生活をしていたのだけれど、公道で倒れでもしたら迷惑になるだけだから、とゆで卵を食べた。その卵は失敗していた。半熟にも届かない火の通りで、殻を剥いて身も剥がれる。生に限りなく近いくせに、茹でられていたために黄味は人肌程度にぬるまっている。ひどく気持ちの悪い味がした。鶏の体液をそのまま飲んでいるような錯覚をする生臭さがあった。ぬるい黄味は上あごに貼りついてしまったように、買い物をして帰ってくる道ですらもずっと落ちないままそこにあった。
 町ではそろそろ花柘榴が咲くころだろうか、まだ早い。つつじはもうほとんどが枯れ落ちてしまった。目下、散歩の楽しみになるようなものは少ない。月もちょうど衰えていくところ、入梅して天気も悪い。気持ちが晴れないまま六月の道行きは重い。梔子が咲くだろうか。けれどもこの町になんと梔子の少ないことか。沈丁花の季節はよかった。初夏より初春がいいということではなく、濡れた空気が好きではないのだ。
 ここまで書いていたら外で不如帰が鳴いた。いい声だったので今日の雑事は帳消し。山に住んでいるのだなあと実感する。これは日記だ。

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