文
- デスクトップアクセサリー「みみ」
2003年02月21日(金)
がらんと肌寒い薄暗い部屋は、朝脱いだパジャマも朝飯の残りもそのあたりに転がされている。玄関から入ってすぐ、その生活感が全く自分ひとりだけのものであることに、ひとつため息をついた。 大学を卒業して、二年になる。地元の神奈川でも進学先の埼玉でもなく、就職して栃木に住んでいる今の状況を考えることができていたら、大学一年だった頃の俺はもう少し有意義に遊んで暮らせていただろう。こんな、毎日毎日朝から夜まで馬車馬のように働かされる生活のために、俺は四年の楽しみ全てを投げうってきたのだ。ああ。 ネクタイを引き抜いて、投げる。靴下も脱いで、投げる。日に日に散らかっていく部屋を掃除するのは俺。どうせ俺。 PCの前に座って、電源を入れる。あかりを点けないままの部屋の中に響く起動音が寒々しい。 『こんばんは、健! 今の時刻は2002年6月29日午前0時29分だよ!』 デスクトップに今住んでいるのは、このあいだ作ったばかりの人格「みみ」。時間を報せてくれるだけではなく、メールチェックやスクリーンセイバーの起動もしてくれる。 「よお、みみ、今日も可愛いなあ」 『もう、なんでこんな時間まで起きてるんだよっ!? 早く寝ないと明日起きられないぞっ』 「でもさあ……仕事以外で人と話さないとさ、荒むんだよ……って、お前も生身じゃないけど」 みみは頭の後でひとつにまとめたみつあみをぴょこん、と振って一回転した。 正面を向いたその手に、なべをひとつ持っている。 『お夜食、作ってあげるから、まあそこで待ってなよっ!』 ねっ、とウィンクをしてくれるみみに癒されながら、こんなんじゃ俺駄目だよな、と虚しくなった。 『ほら、肉じゃが。お前もいいかげん彼女作れよなっ!』
今夜の俺の晩飯は、でもまたチキンラーメンなのである。
/出題「生意気可愛い」「料理人」
※「みみ」は料理人の格好をしたキャラクターです。 ※生意気で可愛いという人格設定です。 ※起動後に一芸でお料理(意外に家庭料理が多い。ランダム)を作ります。 ※夜更かしすると怒ります。
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