迷宮ロジック
DiaryINDEX|past|will
最初から読む
ムジナ
2002年02月03日(日) |
ムジナ 第11章 恩寵 |
第十一章──恩寵
黒い扉の前の噴水は水が枯れていた。 モニターに残る水滴がその名残となっているのみ。
「もう入る準備が出来ているようだな」 シュンがつぶやく。それに呼応するように。
「やっときたのね」
唐突にスピーカーから音声が漏れる。 女王だ。 やはり、こちらの動きは筒抜けらしい。
「最初の扉は過去。あなたのうちのだれかが裁かれる」
「どういう意味?」 「誰に俺達を裁く権利がある。それともお前たちは、俺たちの身内か関係者の一人なのか」
「その質問に答える義務はないわ。 想像力がありすぎるのと、なさすぎるのは同じくらい不幸なことね。 あなた達を見ているとそう思うわ」
「ふざけるな」 「何言ってるのよ」
「幸運を祈るわ。一応」
一方的に用件を告げるとスピーカーは耳障りな音を立てて切れた。
「ルリちゃん、どうしたの?寒いの?」
「ううん。大丈夫だよ。おねえちゃん」
青ざめた顔色で 自分の両手を抱えるようなしぐさをしながら、 ルリは笑ってみせた。
とても大丈夫には見えない。
「すこし休んだほうがよくない?」
「ほんとに大丈夫だから」
そのままルリはこちらに背を向けてうつむいてしまった。
|