迷宮ロジック
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ムジナ
2002年01月29日(火) |
ムジナ 第7章 デジャ・ビュ |
第七章──デジャ・ビュ
女、いや「女王」はいった。
「これから始めるのはゲームよ。あなたたちがもとの世界に戻れるかどうかのね」 「ゲームって……なによ」
まるで神様気取りで。 いったい私たちをなんだと思ってるのよ。
そう叫びだしそうになる気持ちを抑えて 私は女王を 正確には女王の映っているスクリーンを見つめた。
ここで感情を表した方が負けだ。 そう思ったから。
「そうね……」 女王は口元だけでかるく笑い、続けた。
「簡単よ。塔のてっぺんまで登ってくればいいのよ。蝋燭が一本燃え尽きる前に」 「ただ、途中で鍵がかかってる扉が3つあるだけ」 「鍵を開くには言葉が必要なの。正しい言葉を選ばない限り」
「また最下層まで突き落とされる」
「最下層ってまさか」
「そう、あなた達のいるこの場所のことね。 大丈夫よ。 必要最小限のものは揃えてあるから ここにいる限り、あなたたちは死ぬことはないわ」
だけど。 私はこんなところ好きじゃない。 それに。
「なんで私がそんな真似をしなきゃならないのよ。 私は早くここから出たいの。 だって映画『ハンニバル』を見なくちゃならないんだから。 私だって知ってることだけど。 誘拐監禁の罪は重いのよ。分かってるの。」
「それはあなた達の世界の決まりでしょう。 ここにいる限りあなたにもこの世界の掟に従ってもらいます」
「なによそれ」
さっきまでの冷静になろうとする決心を忘れかけ、私は思わず声を荒げてモニターに近寄った。
一番大きいモニターは下一部のみ水に浸かっている。 とはいえ水はせいぜい数センチ。 少なくとも今の私を止められるほどじゃなかった。
だけど、とたんに。 モニターは始まったときと同じく ぶうううんという嫌な音を立ててブラックアウトした。
怒りのやりどころがなく 真っ暗な画面のフレームを握りしめていると。
ふいに、やけに響きの良い女王の声だけが聞こえてきた。 こう告げた。
「一度部屋に戻ることを許します。 準備が済んだらすぐに始めて下さいね。 次のサイレンがなっても部屋から出なかった者については ゲームを放棄したと見なしますから。
次回がいつあるかはわかりません。 くれぐれも後悔しないように。」
そうして。 その声さえも消え。 あとはただ無言で立ちつくす私たちのみになった。
私は無意識に頬を擦った。 濡れていた。
水は浅い。 そう思ったのに、水しぶきは派手に飛び、頬に、服に当たったようだ。 少し寒かった。
「とりあえず戻ろう、風邪ををひくぞ」 振り返ると、すぐそばに、シュンとルリが立っていた。
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