-殻-
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中身のない言葉に接することが多い。
何の存在意義があるのだろう、その形だけの言葉に。 「頑張る」とか「立ち上がる」とか「夢を追いかける」とか、 そこには僕等が何をするべきかは告げられていない。 耳に心地のよい「響き」があるだけだ。 そして、耳慣れたこの手の言葉たちに、僕等は安心する。 そんな大局的な、抽象概念で人生を決められるほどには、 僕等の世代は世界というものに希望を持ってはいない。 閉じてしまった僕等の夢は、絶望を肯定しない限りは姿すら見せない。 空っぽの言葉は、僕等の隙間を埋められるのだろうか。 埋めたような気がするだけで、いずれは朽ちてゆかないだろうか。 僕が欲しいのは、自分の欠けたココロに擦り寄るような、 切ない叫びであったり、淋しさだったり、郷愁なのだ。 誰のものとも分からず、その存在すら不確かな夢などではない。 積み上げた堰を崩し、行き場のないまま沈黙している感情を、 流しつくしてしまいたいのだ。 中空の言葉の殻を詰め込んだアタマは、 本当の哀しさを隠してしまう。 工場街の煙突の隣に浮かぶ月を眺めて、 不意に湧き上がるどうしようもない衝動も、 僕の表情を変えることすらできない。 涙を、くれませんか。 抑え込んだ切なさが、僕を壊す前に。 閉じ込めた絶望が、僕を殺す前に。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |